2018 Fiscal Year Research-status Report
仏領ニューカレドニア日本人移民史-写真の表象分析による実態解明とアーカイブ構築
Project/Area Number |
18K11832
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
津田 睦美 関西学院大学, 総合政策学部, 教授 (70351236)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ニューカレドニア / 日本人出稼ぎ移民 / 写真 / フランス領 / 天草 / 敵性外国人 / 民間抑留 / ニッケル鉱山 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度となる2018年度は、本研究の動機となった、仏領ニューカレドニアに出稼ぎに渡った初回日本人移民が明治26年に撮影された写真を解読する調査から始めた。具体的には、この写真に写る被写体である①日本人、②労働場所(鉱山)、③労働条件を以下のように検証した。 ①明治25年の初回日本人出稼ぎ移民600名の名簿を旅券下付表(外交史料館所蔵)などから作成。彼らの出身地である熊本(特に天草)で史料調査、聞き取りを行った。当時の地方新聞(熊本市歴史文書資料室所蔵)から関係する記事を収集し、出稼ぎに至る動機、移民募集に関わって移民会社や地域のまとめ役(庄屋)の役割、地域ごとの事情を考察した。 また、8月に天草市歴史民俗資料館で、郷土史家、役所関係者(市史担当)、地域の人(遺族を含む)に向けた講演を行ったことで、天草でのネットワークが広がり、有力な調査協力者(遺族や移民の菩提寺、郷土史家)に恵まれることになった。それによって情報収集力が増し、出稼ぎ移民の帰国後の動向、例えば郷里にどのような恩恵をもたらしたかが少しずつわかるようになってきた。 ②写真の台紙に書き込まれた手書きのメモをもとに、この鉱山の所有者の変遷を調査し、撮影場所をメー鉱区と特定した。また、当時日本人が実際に働いていた他のポーリヌとトゥムルーの2箇所の鉱区についても場所を特定した。 ③写真から、当時の労働・生活環境がどのようなものかを、ニューカレドニアの歴史家や鉱山に詳しい専門家の助言を得ながら見直す作業を始めた。メー鉱区と、ポーリーヌ鉱区の跡地を、ル・ニッケル社の許可を得て実際に訪れ、史料に記述されたようなストライキの原因となるような労働環境であったのかを検証した。 他に、これらの写真の元の所有者である写真コレクター、セルジュ・カク氏(パリ在住)から聞き取りをし、他に日本人の写る写真のデータを提供してもらった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度はほぼ予定していた調査を行うことができた。ただ、天草(初回出稼ぎ移民500名の出身地)での調査が予想以上に発展したため、他の作業、例えば、写真をアーカイブ用にリスト化する作業などが終わらなかった。天草での調査活動はまだしばらく時間を要する。その理由は、天草では明治期の仏領ニューカレドニア出稼ぎ移民に関する研究は、郷土史家の北野典夫氏が亡くなってから継続して行われてこず、一次資料も散財し、史実そのものがほぼ忘れ去られていたため調査が容易ではなかったからだ。しかし、地元の郷土史家の方々が当研究に大いに関心を持ってくださり、協力体制ができたことにより、遺族への聞き取りや新規史料の収集など、ゆっくりではあるが実りあるものとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画どおり、今年度はアメリカの国立公文書館で対日拠点となったニューカレドニアに駐留していた米軍が1942年から 1947年 間に撮影した写真を調査する。フランスの国立公文書館では、ニューカレドニアに出稼ぎに行った日本人について、フランス側の視点で作成された史料の収集、特にニューカレドニアでは見つからなかった初回移民についての史料を調査する。同時に、ニューカレドニア、日本各地での史料調査および聞き取りを継続する。 ニューカレドニアでは、初年度に行ったニューカレドニアの初回日本人出稼ぎ移民が働いていたティオの3箇所の鉱区跡での実地調査を、ドローンを使った撮影をすることで発展させ、移民の労働環境の解明につとめたい。また、現地でティオの鉱山の歴史に詳しいモーリス・フェルス氏(現在81歳)への聞き取りを徹底して行いたい。 集まった写真の背景にある歴史や情報を整理し、リスト化する作業を進めるとともに、学会などでの研究発表をする。天草では研究会を立ち上げて情報交換を行うことで、研究成果の質をあげ、最終年度に向けた準備をする。
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Causes of Carryover |
予定していた翻訳作業、データ打ち込み作業(アルバイト)などを行なわなかったため、今年度に持ち越すことになった。
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Research Products
(3 results)