2018 Fiscal Year Research-status Report
Transmission and transformation of intangible cultural heritage in relation to natural hazards: a case study in Northern Vanuatu
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18K11836
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Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
野嶋 洋子 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, アジア太平洋無形文化遺産研究センター, アソシエイトフェロー (50586344)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 無形文化遺産 / 自然災害 / 在来知 / 環境 / バヌアツ |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年1月に、バヌアツ北部バンクス諸島のガウア島西部で1週間の現地調査を実施した。 ガウア島西部では、2009年から2010年の火山噴火により地域住民が島内の北部地域に約半年にわたって避難した経験があることから、当時の状況およびその後の生活再建について具体的な聞き取りを行った。また住民が過去に経験した他の災害(サイクロンや異常気象等)についてもリストアップし、災害経験を経た様々な伝統的知識や技術、実践(無形文化遺産)の変化に焦点をあて、情報収集を行った。 人々により実践、継承される無形文化遺産は、災害によって中断されることはあっても、その災害が直接的な原因となって失われることはない。しかし、災害により生じる様々な状況変化が、その後の無形文化遺産の継承に影響していることが、今回の調査を通じて具体的に明らかになった。例えば、タロイモはガウア島の結婚式や葬儀に伴う祭宴に不可欠な作物だが、2009年の噴火により、それまで西部地域で多く栽培されていたタロイモの品種の殆どが失われ、それ以前より減少傾向にあったタロ栽培の衰退を加速する一因となっている。また北部集落の人々と長期の避難生活を通じて交わることにより、人々(特に若者)の価値観にも変化を及ぼし、日常的にカヴァを飲用するカヴァ・バーなど新たな習慣が西部へと持ち込まれ、現金収入が得られるカヴァの栽培がその後増加していく契機ともなった。 災害時に有効な非常食の知識については、比較的食物資源の豊かなガウア島では殆ど実践されていないが、2009年噴火による避難生活後の生活再建の際には、極めて限定的ではあるが活用した事例があることが確認できた。耐風性能の高い伝統家屋形態も、西部集落の調理小屋では継承されており、ある程度のレジリエンスを保っている現状が窺えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画どおり、バヌアツ文化センター(VKS)と事前に協議し、調査の方向性、調査項目等について合意した上で、共同調査として実施する体制を確立し、研究に着手することができた。無形文化遺産と災害はVKSとしても関心の高い領域であり、極めて積極的な協力が得られることとなった。 現地調査については、当初予定していたとおり、ガウア島西部で2009年噴火の影響を中心に聞き取りを行い、地域に被害をもたらした他の主要災害についても情報が得られた。今後更に分析を進めるべき無形文化遺産要素についてもほぼ特定ができたが、伝統的パフォーマンスについてはもう少し検討が必要である。今後、ガウア島関連の文献資料、民族誌資料等を更に精査しつつ、分析に進みたい。 VKSとの調整の結果、現地調査時期を2019年1月にずらして実施したが、VKS所長および文化遺産スタッフの参加できたことにより、無形文化の重要性や災害時の有効性について、より当事者に近い立場から訴え、相互理解を促すことができた。また、2018年11月にVKSがユネスコアピア事務所の協力を得て、アンバエ島噴火災害の被災者を対象に無形文化遺産関連の聞き取りを行ったことから、今年度はアンバエ被災者への直接の聞き取りは見送り、VKS調査の報告を共有してもらうとともに、調査に携わったVKSスタッフとの意見交換を行うことで対応した。 以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ガウア島における災害に関連する知識や実践に関しては一定の情報を得、また2009年の火山噴火と被災を契機とした伝統的な知識や実践(無形文化遺産)の変容についても、住民の視点から意見や見解をすくい取ることができた。今後、ガウア島事例に関しては、民族誌資料、ミッショナリー関連資料等を渉猟しつつ、無形文化遺産の長期的変容について分析を進める。補足的な情報収集は、2019 年度あるいは2020年度の現地調査時に行うこととする。 2019年度以降は、アンバエの無形文化遺産の状況について、同様に把握していくことを目指す。帰島が始まって間もない時期であることからどの程度の現地調査が可能か不透明なところはあるが、VKSからの要望もあることから、緊密に連絡をとりつつ無理のない計画を立て、実施していきたい。 アンバエを調査対象に加えることにより、複数の災害事例を考慮するとともに、より多くの無形文化遺産要素を分析対象とし、包括的な議論が可能になることが期待できる。
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Causes of Carryover |
国内での情報収集を所属機関内で行い、旅費が発生しなかったこと、またバヌアツ国内より2名が調査に加わることになったため、申請時に想定していたM.Wilsonの招聘を控えたことによる。 2019年度は交付予定額が小さいが、現地調査を実施するにあたり、初年度とほぼ同様の支出が見込まれることから、収支により生じた次年度使用額を合わせることで対応する。
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