2020 Fiscal Year Research-status Report
アクターネットワーク理論を用いた名古屋大都市圏の観光農園の展開過程に関する研究
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18K11839
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
林 琢也 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (50572137)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 観光農園 / ブドウ狩り / 市街化区域 / ジレンマ / 栽培環境 / 相互作用 / 布置連関 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は,これまでの研究成果に新たな調査地域を加え,より包括的に名古屋大都市圏のブドウ狩り観光農園の展開過程を考察する予定であった。しかし,新型コロナウィルス感染症の流行に伴い,現地を訪問し,多くの農業関係者に長時間に及ぶ聞き取りをおこなうことは,感染防止の観点からも,先方に多くの負担やリスクを与える可能性が高いと判断し,訪問調査を自粛することとした。このため,昨年度までの調査内容の精査,収集済みの文献・資料の読み込みなどが研究の中心となってしまった。ただし,これまでにインタビューを行ったことのある一部の生産者に対しては,2020年8~9月,2021年3月に電話やメールを用いた補足的な調査を実施した。 各産地は1960年代にブドウ狩りを開始して以降,現在に至るまでの展開において多くの共通点がみられる。例えば,栽培技術を研鑽するための組織や「場」の存在,施設の整備,有望品種の選択は,販路の拡大や集客力の安定化を可能にした。さらに,都市化の進展や担い手の減少は,ブドウ園という身近な「農」の存在感を際立たせ,都市住民のブドウ園への消費のまなざしを強化させた。他方,市街化区域内農地は,直売や摘み取りを求める近隣住民の確保という意味では経営上,優位に働くものの,課税負担や日々の農作業における周囲への気遣いという意味では経営継続の難しさも内包している。さらに,近年顕著な夏の高温や雨量の変化は,高品質なブドウの収穫比率を低下させている。名古屋大都市圏の各地で同時期に普及・展開していった観光農園の展開は,こうした不確実な環境下における非人間やモノを含む様々なアクターの存在やそれらのハイブリッドなネットワークの中で把握することが重要であり,期間延長によって新たに最終年となった次年度は,特にこの部分を多面的に理解・考察できるよう,調査と分析・考察を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
今年度は,新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から,高齢な生産者も多い地域での現地調査を自粛したため,電話やFAX,メールを用いた簡易的なインタビューと資料収集は実施したものの,長年にわたるブドウ生産や販売の歴史,農業経営の変化に影響を与える諸アクターの存在や相互作用について,個々の生産者レベルで十分に把握することができなかった。その結果,昨年度までに実施した聞き取りの結果や収集した記事や資料,統計を再整理・精査することが中心となった。このため,本研究の目的や趣旨を鑑みれば,研究の進捗は,遅れていると言わざるを得ず,期間延長の手続きによって最終年度となった次年度(2021年度)に不足分の調査を進めていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
科学研究費の期間延長手続きを行い研究期間が1年延びたものの,新型コロナウィルスの感染拡大は現在も続いているため,現地調査は感染対策をしっかりと行った上で実施するとともに,電話取材やオンラインインタビュー(zoom利用)等も併用して,柔軟に調査・研究を進めていく予定である。 2021年度は最終年度となるため,これまでの調査地(名古屋市,大府市,東浦町,岐阜市)のまとめを行うとともに,名古屋市から相対的に離れた岡崎市などの地域の調査を追加することで,個々の地域の展開を理解するとともに,同時代に同一の経営形態を志向していた生産者の実践や地域間の繋がりを関係論的に捉えることが可能となる。また,都市化・兼業化の進展がソフト・ハード面で農業経営や営農環境に与えてきた影響や税制等の問題,技術革新や品種選択,施設整備,気候変化と営農意欲の関係性など,人間・非人間の布置連関の形成プロセスを描出し,ハイブリッドなアクターの相互作用の理解に努めたい。また,学会発表や論文執筆といった形で積極的に成果の発信を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度は,新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から,現地での聞き取り調査を自粛せざるを得ず,旅費を使用することができなかった。このため期間延長手続きをおこない,新たに最終年度となった2021年度の現地調査の費用として使用する予定である。
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