2021 Fiscal Year Research-status Report
アクターネットワーク理論を用いた名古屋大都市圏の観光農園の展開過程に関する研究
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18K11839
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
林 琢也 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (50572137)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 観光農園 / ブドウ狩り / 組織化 / 栽培技術 / 都市化 / ジレンマ / 自然環境 / 相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度もCOVID-19拡大防止の観点から予定を変更し,簡易的な現地調査と過年度に実施した調査結果の整理,文献資料の読み込みを中心に行った。調査地(名古屋市,大府市,岐阜市,岡崎市)では,昭和30~40年代初頭にブドウ狩りが始まり現在に至っている。これらの地域では,宣伝や営業,受付や運営業務,観光客の配分等を組織的に行い,名鉄との連携や余暇需要の高まりを背景に1960~70年代に隆盛を極めた。当時,上記に美濃加茂市を加えた地域では,入園料や土産の量の調整が行われ,交流がみられた点も特徴的である。また,技術や知識の移転に注目すると,近居の農家や組合による講習会,近隣市町の農家との研究会,県外産地への研修等,重層的な空間スケールの中で技術研鑽の場が形成されていた。特に先進地の技術や工夫を自地域の自然環境や社会状況に合わせた形に変換(再解釈)することでレベルアップを図っていた。その他にも,長年の取り組みを整理すると,ジベレリン処理の普及や雨除けハウスの登場といった生産環境の変化に加え,新聞社や写真協会と共催した撮影会や,先人の努力とブドウ園の発展を唄ったレコード(歌)の作成,園地に電球や提灯を備えたナイターのブドウ狩りもみられた。これらは一例であるが,各時代において,様々なモノがブドウ狩りの現場に動員され,生産者の行為に影響を与えてきたことがわかる。また,現在は,SNSによる情報発信に努めている農園やコロナによる自粛生活によって宅配注文が増えている農園も少なくない。その他にも,コロナ禍の中,住宅街に近接する観光農園では周囲の住民の目を気にし,集客を気兼ねするような雰囲気も一部にはみられた。 次年度は,コロナの影響やSNSの存在といった要素も加味した上で,現在に至る観光農園の展開についてhumanとnon-humanの関係構築やnon-humanの及ぼす作用を動態的・空間的に捉え,考察する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度も新型コロナウィルスの感染拡大を防止する観点から,高齢な生産者への聞き取り調査を一部自粛したため,当初の予定からは遅れていると言わざるを得ない。しかしながら,過年度に実施した調査結果の再整理や収集した文献・資料を丹念に読み込むことで,新たに気が付いた点や知見もあり,来年度(最終年度)の調査を充実させるための有意義な準備期間になったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度(2022年度)は,これまでの調査のまとめを行うとともに,研究が十分に進んでいない岡崎市での調査を進めることで,各地域の観光農園の展開過程やそこに介在する異種混淆なアクターの相互作用を理解し,同時代に同一の経営形態を志向した各地の観光農園や生産者同士の繋がりを詳らかにする予定である。各地域の観光農園は,それぞれの時代において常に消費者(観光客)側の需要に対応してきたが,その過程では,様々なモノや技術がブドウの生産空間やブドウ狩りの場に動員されてきたため,その有様を丁寧に描き出すことに努めたい。また,学会発表や論文によって成果を積極的に発信する予定である。調査方法については,現地での聞き取りに加えて,電話取材やオンラインインタビューを併用することで,柔軟に調査を進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2021年度は,新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から,現地での聞き取り調査を制限したため,旅費を使用することができなかった。このため期間延長手続きをおこない,新たに最終年度となった2022年度の現地調査の費用として使用する予定である。
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