2019 Fiscal Year Research-status Report
行動論的分析を基軸とした新たな観光まちづくり手法に関する実践的研究
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18K11845
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Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
斉藤 理 山口県立大学, 国際文化学部, 教授 (50610408)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 観光 / まちづくり / 文化遺産 / 行動論 / プロトコル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人の行動論的分析を主軸に、空間認知論をも援用しながら、観光まちづくりプラン案出のプロセスをパタン・ランゲージ化させつつ、平易なプロトコル開発をめざすものである。今年度は主として、研究計画の第1フェーズに位置づけられる事例把握・分析、ならびにプロトコルモデルの改良から、第2フェーズに当たる関連するヒアリング調査、さらにプロトコルの設計に注力した。具体的には以下の通りである。 1)2019年度は主に「観光まちづくりプロトコルモデルの設計・試行・結果分析」に当たり、国内外における研修プログラムを分析し、そのうち欧州の事例について観光まちづくりに関わるプロトコルを運用する上で必要となる組織・手法などを実地に調査した(のべ8件)。例えば、負の遺産を活用した文化観光事例や文化遺産を活用しながら来訪者と地域住民とが交流するための子供向けワークショップ事業例、芸術家・芸術事業支援と観光戦略を関連付ける活動例など(ベルリン市文化財団Berliner Projektfonds Kulturelle Bildungほか)を調査し、同モデル設計に反映させた。 2)新たに設計した同モデルを用い、ベルリン市の文化機関と協働し、文化遺産(近代における住宅団地)を活用した観光交流創出手法に関するワークショップを実施(2019年9月)。地域住民およそ20名が参加し、数時間のうちに予想以上の有効な結果を生み出すことができた。とりわけ、同モデルが地域におけるステークホルダー間の新たな連携に有効であることが明らかになった。 3)ポーランドのアダム・ミツキェヴィチ大学にて開催された国際学会(The IUAES Inter-Congress 2019)にて本研究の途中経過報告を行い、広く各国の研究者と情報交換、ならびに適切なアドバイスを受けることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
近年、わが国の地域振興や観光促進等の動きの中で、各地域での観光まちづくりが盛んに試みられているものの、地域住民の「内発的な観光まちづくり活動」と行政施策等「上位計画」を有機的に連携させる媒体や手法(プロトコル)が不足しているため、実効性のある観光コンテンツの創出に結びつきにくいことが指摘されている。そこで、こうした関係要素を複合しつつ、観光まちづくりに関わる調査・立案がスムーズに遂行できるプロトコルの開発を進めているが、2019年度における研究活動の結果、同システムを国外においてもシームレスに展開できる可能性を見出すことができた。 1)2019年9月にベルリンにおいて試行した、観光まちづくりプロトコルに基づくワークショップでは、予想を超える成果(人の行動を示す動詞数)を得ることができたほか、総じてドイツ人参加者の関心の度合いや発言数は国内における実施時よりもむしろ高く、プロトコルモデルの国外展開の可能性を大いに観取することができた。前年度の研究成果物である独自の運営マニュアルの有効性も確認された。 2)ポーランドにおける国際学会発表を通じた専門家によるピアレビューを実施。申請者の予想を大きく上回る、本研究の方向性・目的・新規性への強い共感を得ることができた。殊に、同プロトコルのなかで地域住民の発想を「多角的、複合的、包括的」に情報統合させていくことが可能な手法に対して評価や関心が高かった。これを契機に、各地の研究者(フランクフルト大学ゲアノット・ヴォルフラム教授、ベルリン工科大学ヨルク・グライダー教授ほか)との学術的情報交換を深化させている。 以上から本研究のめざすプロトコルが国際間で共通して実施できるワークショップ・プログラム(一つの共通言語)として確立する可能性を明らかにした。これを踏まえ、当初の計画以上に進展している、と判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの「現状把握」から「プロトコルの設計に関わるフェーズ」、「プロトコルの実効性分析のフェーズ」へと移行していく。具体的には以下の通りである。 1)伝統的建造物群保存地区を対象としたこれまでの基礎調査の結果分析を進め、さらなる実地調査に最適であると考えらえる3か所程度を対象にワークショップ形式でプロトコルモデルを試行(独自の「動詞抽出調査法」を用いて)し、得られた「動詞」をテキストマイニング法で体系化し、パタン・ランゲージ化を試みる。その際、感染症の拡大阻止にも最大限の注意を払う。 2)前年度までの調査結果を整理・二次的分析を進め、さらに日本国内の諸地域における受け入れ環境も踏まえつつ、最終的に、実際にわが国の各自治体において、ひいては広く国際間において導入可能な、観光まちづくりプロトコルを体系的にまとめ、かつ必要なワークシート等も併せて提言する。また成果物として、観光まちづくりに関わる調査・立案がスムーズに遂行できる手引き書(計30のトピックス毎にワークショップ形式で観光まちづくり企画を立案できるテキスト)を完成させる。これは、「文化遺産をどのように観光活用できるのか」を模索する我が国の地域コミュニティ・行政・関連事業者等のニーズに的確に応える資料であり、更にこれを大学での教育内容(本学での授業「観光まちづくり論」「観光まちづくり演習」、あるいは社会人の観光人材養成講座等)に反映させ、人材育成プロセスにおける有効性を検証する。 本プロトコルが普及すれば、国内外問わず、地域における内発的で市民の創意に溢れた文化観光事業のコンテンツ創出を飛躍的に促していくものと考えている。
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