2020 Fiscal Year Research-status Report
行動論的分析を基軸とした新たな観光まちづくり手法に関する実践的研究
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18K11845
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Research Institution | Yamaguchi Prefectural University |
Principal Investigator |
斉藤 理 山口県立大学, 国際文化学部, 教授 (50610408)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 観光 / まちづくり / 文化遺産 / 行動論 / プロトコル / 関係人口 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人の行動論的分析を主軸に、空間認知論をも援用しながら、観光まちづくりプラン案出のプロセスをパタン・ランゲージ化させつつ、平易なプロトコル開発をめざすものである。昨年度までに研究計画の第1フェーズに位置づけられる事例把握・分析、第2フェーズに当たる関連するヒアリング調査さらにプロトコルの設計に注力してきた。具体的には: 1)2019年度までに、国内外における観光まちづくりプロトコルモデルを分析し、そのうち欧州の事例について、その運用面で必要となる組織・手法などを実地に調査(ベルリン市文化財団Berliner Projektfonds Kulturelle Bildungほか)。 2)ベルリン市の文化機関と協働し、文化遺産を活用した観光交流創出手法に関するワークショップを試行。地域住民およそ20名が参加し、数時間のうちに予想以上の有効な結果を生み出すことができた。 3)国際学会(The IUAES Inter-Congress 2019, アダム・ミツキェヴィチ大学にて開催)にて本研究の途中経過報告を行い、広く各国の研究者と情報交換、ならびに適切なアドバイスを受けることができた。 これらを踏まえ2020年度は、「プロトコルの実効性分析のフェーズ」へと移行する予定で、伝統的建造物群保存地区3か所程度を対象にワークショップ形式でプロトコルモデルを試行(独自の「動詞抽出調査法」を用いて)し、得られた「動詞」をテキストマイニング法で体系化・パタン・ランゲージ化を試みる計画を進めていたが、感染症の問題から実施を延期した。そこで、とくに昨年度までの調査で浮上してきた「観光まちづくりの担い手の確保の問題」に焦点を当て、観光を機に地域との関わりを深める「関係人口」創出のあり方に関連する文献調査ならびに予備調査を実施。最終年度におけるプロトコルの取りまとめに有益な情報を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年わが国の地域振興や観光促進等の動きの中で、各地域での観光まちづくりが盛んに試みられているものの、地域住民の「内発的な観光まちづくり活動」と行政施策等「上位計画」を有機的に連携させる媒体や手法(プロトコル)が不足しているため、実効性のある観光コンテンツの創出に結びつきにくいことが指摘されている。そこで、こうした関係要素を複合しつつ、観光まちづくりに関わる調査・立案がスムーズに遂行できるプロトコルの開発を進めている。とくに2019年度ベルリンで試行した「申請者独自の観光まちづくりプロトコルに基づくワークショップ」にて、同モデルの実効性、同システムを国外においてもシームレスに展開できる可能性を見出すことができたが、その際「観光まちづくりの担い手の確保」や、さらには「どのような関係因子によって参画するか」という課題が顕在化した。今年度、これに関連する以下のような文献・予備調査を実施した。 1)本学在学生へのプリテスト(2021年1月実施)の結果、在学する山口市への来訪を他者に勧める意識は総じて高くないが(10段階スケールの5.17)、在学期間が終了しても大学周辺の地域と何らかの関わりを持ち続けたいと考える意識は比較的強かった(「強くそう思う=+2」から「全くそう思わない=-2」までのPMグレード評価の平均値が1.67)。このようなデータを活用し、現在開発中のプロトコルによってこうした関係人口も観光まちづくりに参画できる仕組みを整備していく。 2)その他、国内の複数の民間事業者に対し、とくに単身赴任者の赴任先での観光まちづくりに関わる可能性について聞き取り調査を行い、地域内外との交流状況について分析を進めた。 以上から、今年度は感染症の問題から、当初計画の「関連項目」に位置づけられるテーマの調査を進め、最終年度の取りまとめに資するよう対応した。これ を踏まえ、おおむね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの「現状把握」、「プロトコルの設計に関わるフェーズ」から「プロトコルの実効性分析のフェーズ」へと移行していく。具体的には今年度計画していた以下の項目を進めていく。 1)伝統的建造物群保存地区を対象としたこれまでの基礎調査の結果分析を進め、さらなる実地調査に最適であると考えらえる3か所程度を対象にワークショップ形式でプロトコルモデルを試行(独自の「動詞抽出調査法」を用いて)し、得られた「動詞」をテキストマイニング法で体系化し、パタン・ランゲージ化を試みる。 2)前年度までの調査結果を整理・二次的分析を進め、さらに日本国内の諸地域における受け入れ環境も踏まえつつ、最終的に、実際にわが国の各自治体において、ひいては広く国際間において導入可能な、観光まちづくりプロトコルを体系的にまとめ、かつ必要なワークシート等も併せて提言する。また成果物として、観光まちづくりに関わる調査・立案がスムーズに遂行できる手引き書(計30のトピックス毎にワークショップ形式で観光まちづくり企画を立案できるテキスト)を完成させる。これは、「文化遺産をどのように観光活用できるのか」を模索する我が国の地域コミュニティ・行政・関連事業者等のニーズに的確に応える資料であり、更にこれを大学での教育内容(本学での授業「観光まちづくり論」「観光まちづくり演習」、あるいは社会人の観光人材養成講座等)に反映させ、人材育成プロセスにおける有効性を検証する。本プロトコルが普及すれば、国内外問わず、地域における内発的で市民の創意に溢れた文化観光事業のコンテンツ創出を飛躍的に促していくものと考えている。
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Causes of Carryover |
感染症拡大の問題から実地調査ができず、研究期間を延長した方が有益な成果が得られると判断しました。次年度は、今年度使用予定の経費を同様の費目において使用予定です。
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Research Products
(4 results)