2018 Fiscal Year Research-status Report
独墺の観光事業に見る「ロマンティック・イメージ」形成についての文化史的研究
Project/Area Number |
18K11867
|
Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
小宮 正安 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (80396548)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 観光学 / 地域研究 / 文化史 / 西洋史 / 芸術社会学 / 政治史 / 神聖ローマ帝国 / 観光史 |
Outline of Annual Research Achievements |
ロマンティック街道に代表されるように、ドイツとオーストリアにおける「ロマンティック」は、観光事業の展開にあたって不可欠な要素となっている。だが、ロマンティックという広く流布しているイメージを、彼の地における観光事業の側面から歴史的に掘り下げた研究は未だ存在しない。本研究では、1)ロマンティックとツーリズムとが相互に関係するようになった19世紀以降の時代に焦点を当てつつ、2)ドイツならびにオーストリアが観光立国として歩む中でいかに「ロマンティック・イメージ」が育まれ、それが観光の現場へ用いられたのかを文化史的アプローチから検証し、3)我が国のツーリズムにおけるイメージ戦略への応用性の検討と提言をおこなう。 平成30年度は特に上記の1)を踏まえつつドイツとオーストリアにおける「ロマンティック・イメージ」の歴史を俯瞰し、A)神聖ローマ帝国時代の文化遺産を用いた国家ならびに地域の観光政策の方法、B)政治と観光の相互関係について、文化史というアプローチからそれらをいかに分析できるかを多角的に検討する。時代的には、1)19世紀から20世紀初頭にかけての君主制期における「ロマンティック・イメージ」の位置づけと観光事業との結びつき、2)第一次世界大戦後の共和制下におけるマス・ツーリズムの萌芽期に見る「ロマンティック・イメージ」とドイツとオーストリアの観光政策の変化、3)ナチス・ドイツ占領下・四カ国統治下における「ロマンティック・イメージ」の利用の実態、4)1950年代に主権を復活して以降のドイツとオーストリアにおけるマス・ツーリズムの発展と「ロマンティック・イメージ」の世界的展開、5)EU加盟以降の時代における新たな観光政策としての「ロマンティック・ツーリズム」という5つの時代と5つのトピックに区分をおこなった上で、それぞれの時代とトピックに沿った現地取材と資料収集をおこなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ロマンティック・イメージと観光との関わりを念頭に、ドイツやオーストリアにおけるハプスブルク関係ならびに観光関係の資料を有している様々な機関や団体において、多角的な調査を展開する。具体的には、これまでも科学研究補助金による研究を通じて密接なコンタクトをとってきたウィーン楽友協会資料館館長のオットー・ビーバ博士や副館長イングリード・フックス博士をはじめ、オーストリア国立図書館、ウィーン市立図書館で資料調査をおこなった。またウィーンをはじめとする各地の観光協会や商工会議所で、図版をも含めた資料の収集にあたった。 また国内においても、広くドイツとオーストリア、ならびに「ロマンティック・イメージ」に関する社会史、政治史、文化史関係の文献を収集した。とりわけ「日本ロマンチック街道」の起点の1つである草津、およびロマンティック・イメージと草津をつなぐ催し物である草津国際アカデミー&フェスティヴァルや同地の観光案内所において調査を実施することにより、我が国におけるロマンティック・イメージのPR方法、さらにそこから育まれた日本独自の「ロマンティック・イメージ」とドイツとオースリア観光の実態の解明を進めていった。 なお調査では、PCやスキャナーを連動させて現地で入手した資料を速やかに電子処理すると同時に、迅速かつシステマティックに電子テキスト化をはかった。 こうした資料収集作業を経ることによって、5つの時代および5つのトピックからドイツとオーストリアにおける「ロマンティック・イメージ」の歴史を俯瞰することが可能になり、次年度以降の研究の発展に大いに資することとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、平成30年度の調査を継続しつつ、ドイツとオーストリアにおける神聖ローマ帝国時代の代表的都市であるフランクフルトとウィーン、代表的観光街道であるロマンティック街道とアルペン街道を具体的な事例の中心に据えながら、観光政策を通じて浮かび上がるロマンティック・イメージの変遷、並びにそのようなイメージに基づいて作られる各都市や観光街道のイメージが「観光立国」としてのドイツやオーストリアにいかなる形で反映されたのか、という問題についての詳細な分析を行う。 分析にあたっては、平成30年度の成果を踏まえ、以下のトピックを研究の柱とする。具体的には、1)政治体制の変化の中で「ロマンティック・イメージ」が観光事業の重要な要素として継承された経緯、2)民間レベル(観光産業、観光業等)における「ロマンティック・イメージ」の受容と 発展の歴史に関する検証を推進するとともに、3)イメージ戦略をめぐる日本とドイツ・オーストリアのツーリズムの比較分析を通じ、4)我が国で展開される、「ロマンティック・イメージ」を通じたドイツ及びオーストリアの観光戦略、並びに5)そこから演繹される我が国のツーリズムに対する方法論の検討をおこない、購入予定のデジタル機器を用いてデータ化する予定である。
|
Causes of Carryover |
当初H30年度にはB4サイズのBD付ノートPCを購入予定であったが、より利便性の高いA4サイズのBD付ノートPCが発売された。ただし前者のほうが後者より18万円ほど高価であったため、平成31年度にこのPCを購入すべく、次年度使用額が生じた。
|