2018 Fiscal Year Research-status Report
観光と社会空間の再構築に関する文化人類学的研究 ―長島をめぐって―
Project/Area Number |
18K11886
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Research Institution | Shujitsu University |
Principal Investigator |
八巻 惠子 就実大学, 経営学部, 准教授 (10511298)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井出 明 金沢大学, GS教育系, 准教授 (80341585)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 国立療養所長島愛生園 / 社会空間の再構築 / 観光地 / 情報装置 / ヘリテージ / 共生(ともいき)収容 / レガシー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、世界遺産登録を目指す岡山県瀬戸内市の長島をフィールドに、観光地化を巡って再構築される社会空間のダイナミズムについての文化人類学的研究である。元ハンセン病患者の数だけある個人の「記憶の束」を、1つの地域の歴史として博物館展示するまでの情報編集を巡って、ステークホルダーらの合意形成のプロセスに着目する。 これまで、主に以下の2点からフィールド調査を進めてきた。 1点目は、現在の国立療養所が発信する情報である。地域の歴史と環境が異なるため、各療養所の資料館の展示内容が少しずつ異なる。見る側の理解や印象も異なってくる。たとえば元々無人島だった長島は、地元住民の強い反対を押し切って国策で開発を進め、風評被害などの二次災害も生んだ。本土との間に橋が掛かっても島には大きな産業もなく、周辺地域共々高齢化と人口減少が進み、瀬戸内市自体も消滅可能性都市の認定を受けている。一方、東京では療養所のすぐそばまで住宅地や商業施設が拡大し、地域住民にはニューカマーが多く、敷地内に幼稚園が建てられた。 2点目は、長島の、「情報装置」としてのフィールド・ミュージアムの構築と、情報の再編成である。現在の長島は人権学習の場という強い認識があり、教育旅行と結びつけられている。ダークツーリズム、負の遺産を見ると考える研究もある。 本年度は、地元の大学生の観光ツアーの参与観察を行った。訪問前と訪問後の学生のレポートの分析を進めている。入所者、施設関係者、行政、人権運動家、博物館展示の専門家、ボランティアガイド、観光振興の活動化、観光政策、世界遺産登録活動からの聞き取り調査を進めているが、古くからの地域住民の聞き取り調査があまり進められていない段階にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目ということで、情報収集を中心に調査を行った。文献・資料の収集を行いながら、ハンセン病を巡る国策と人権問題についての研究や出版物はかなりあること、また近年の元患者の語りのデジタル記録が増えてきていること、海外の記録(学術研究でないものも含めて)もかなりの量があることがわかってきた。従って、本研究では同じようなフィールド調査やインタビュー調査を重ねてやる必要がないと判断した。これらの先行研究やインタビュー記録が観光地ではコンテンツとなるため、それらの研究を踏まえて、観光地を軸に「情報」の編集、情報装置となる展示についての調査に絞ることにした。このように目先を変えたことから、予定に考えていなかった博物館展示の有識者、観光政策や世界遺産登録の専門家、人権に詳しい法律家などから、専門的な知識を得ることができた。また長島以外の資料館展示を複数見たことからは、情報発信や受け止め方の違いを見ることもあった。 本年度は、観光者の視点に立ってフィールドワークを行い、大学生の協力によりツアーの参与観察を行った。過去にもツアーは何度か参与観察をしており、記録の蓄積が若干あり、合わせて整理をして分析の途中であるが、学会報告の予定がすでにあるため、時間を区切って整理をしていく。 ここまでは現在の長島の観光実践における「情報」発信と受理、空間の意味づけをとらえる調査だが,今後は世界遺産登録を目指すという動きのある活動を追うことになる。情報発信側に視点を変えてフィールドワークを行うが、ハンセン病に限らず、「負の遺産」の観光についてはいずれも非常に参考になると思われ、すでにいくつか同時進行でフィールドワークを行った。とりわけガイドの情報発信の調査は力を入れて行いたい。 以上が進捗であり、全体評価としては計画通りに進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは初年度のフィールド調査の報告をとりまとめ、国際学会での報告がすでに決まっている。ここまでは観光者側の視点での調査報告だが、今後は観光地を作る側の視点で調査を行ってゆく。 世界遺産は建築物の価値が評価を受けることが多いが、長島においては人々の記憶と経験がより意味を持つ。建築物はハンセン病患者の隔離という歴史的事実についての情報発信の装置であり、それを通じて長島という場所や国立療養所という隔離施設といった人工物の空間の意味づけが「見える化」される。理論的にはそうなのだが、現実の手続きはそんなに単純ではない。観光地の整備は、公共空間としての一元化的価値をどこにもとめるか、空間の意味づけについて地域の共通理解があるということが重要で、長島はそのプロセスにあるといって良い。活動実践者には多くのステークホルダーがいて、各自の思いや活動目的が異なり、複雑で重層的な利害関係がある。まずはそれらの整理から入らなければならないが、慎重なフィールドワークが必要である。
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Causes of Carryover |
物品費が余ったのはパソコンなど機材一式が予定よりも少し安く購入できたからである。 人件費は、謝金が必要な調査が予定よりも少なかったからである。
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Research Products
(8 results)