2020 Fiscal Year Research-status Report
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18K11898
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
林 葉子 同志社大学, 人文科学研究所, 助教 (60613982)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | モーリス・グレゴリー / ユリシーズ・グラント・マーフィー / 廓清会 / 万国廃娼同盟会 / 『アジアの旗』 / 自由廃業 / 人身売買 / 廃娼 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、本研究課題の研究成果として共著を3冊、学術論文を1本、史料紹介を1本発表し、口頭発表と講演を各1回行った。 特に力を入れたのは、イギリスの廃娼運動家であるモーリス・グレゴリーが日本に与えた影響や、アメリカ出身の宣教師であるユリシーズ・グラント・マーフィーが日本で行った自由廃業訴訟とその社会的背景についての研究である。2020年度中に日本国内で収集した史料と、前年度までに海外で得た史料を用いて、これまで日本で知られていなかった重要な史実について論文や資料紹介の中で明らかにした。 モーリス・グレゴリーについては、彼の来日(1911~1912年)に焦点を当て、日本の廃娼運動の全国組織であった廓清会が、当時の国際的な人身売買禁止運動を率いていた中核的団体である万国廃娼同盟会に加盟した経緯について論じた。その加盟を実現可能にした背景として、グレゴリーが来日の約22年前にインドのボンベイで『アジアの旗』を刊行し始めた頃からイギリス帝国と日本の近代公娼制度の関係に関心を持ち、それをアジアのイギリス領における人身売買問題やアヘン取引問題との関連において捉えていたこと等を明らかにした。 ユリシーズ・グラント・マーフィーについては、「自由廃業の父」と呼ばれたマーフィーが自ら所蔵していた自由廃業訴訟の裁判関連史料を発掘し、彼が最初に手がけた自由廃業訴訟についての史料を翻刻して、当該事件の概要について解説した。また、マーフィーの名古屋での活動とアメリカ西海岸やハワイにおける日系人との交流について、口頭発表を行なった。この他、自由廃業運動については、「山室軍平と廃娼運動―日英関係史の視点から」(講演録、共著)を刊行した。 戦後日本の売春防止法制定についても研究を行い、「買売春問題と戦後日本の民主主義―売春防止法制定をめぐる国会と地方議会での議論を中心に」と題する論文を含む共著を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、コロナ禍の影響で海外調査に行くことができなかったが、海外の史料は前年度までに現地で収集したものを用い、今年度は日本国内で史料を収集して、両者を併せて検証した研究の成果を発表することができた。 特に、国際的な人身売買禁止運動と日本のそれとを結んだ万国廃娼同盟会について、キーパーソンであるモーリス・グレゴリーの足跡をたどることによって日本の加盟の経緯を明らかにする論文を発表できたことは、重要な成果であったといえる。 また、日本の娼妓取締の政策に大きな変化をもたらした自由廃業運動についても、「自由廃業の父」と呼ばれたユリシーズ・グラント・マーフィーの最初の自由廃業訴訟についての一次史料を見つけ出し、その事件の詳細を明らかにすることができたことは、大きな前進であった。 以上のことから、2020年度の研究は、おおむね順調に進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は最終年度であるため、これまでの研究の成果の発表に、さらに力を入れたい。具体的には、本研究課題についての公開連続講座の開催とブックレットの刊行、および、論文と資料紹介の刊行を予定している。 公開連続講座は、「〈性の管理〉の近現代史」を主題として、2021年の6月と7月に計3回の公開講演の形で、同志社大学人文科学研究所主催で実施する予定である。2020年度には、この公開連続講座の準備のため、この連続講座を共同で実施する内藤葉子氏、橋本信子氏、秋林こずえ氏とともに、計7回の研究会を行なった(2020年7月29日、9月30日、11月11日、12月17日、2021年1月29日、2月26日、3月24日)。それらの共同研究の成果も踏まえて、本研究課題についての研究成果を広く社会に還元することを目的としてこの連続講座を実施し、その内容については2021年9月末頃にブックレットとして刊行する予定である。 国際的な人身売買禁止運動が日本に与えた影響について、2021年度も引き続き、ヨーロッパとアメリカ合衆国からの影響を中心に研究を行い、論文等において成果を発表したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により、史料調査の出張計画を変更したため、若干、次年度使用額が生じたが、次年度の史料調査のために有効に使いたい。
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