2018 Fiscal Year Research-status Report
市場化過程における保育労働とヴォイス・メカニズムの日・米・豪の国際比較研究
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18K11901
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
萩原 久美子 下関市立大学, 経済学部, 教授 (90537060)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ケアの市場化 / 保育労働 / 労働運動 / 公共部門と女性 / ケア労働力の編成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は日本・アメリカ・オーストラリアを対象に、保育労働者の労働実態と発言(ヴォイス)メカニズムの比較を通じ、以下についての研究調査を遂行することを目的としている。 本年は、第一に、保育分野への市場原理の適用過程と適用程度の相違からケアの市場化の多様性の現状把握を目的に、オーストラリア、アメリカの市場体制に関する歴史的経緯に関し、海外の文献を中心に検討を進めた。あわせて、労働社会学の視点からの「ケア労働」の分析枠組みの動向に関する文献サーベイを進めた。 第二に、準市場概念に基づくサービス購入と契約関係のもとでの保育所における労働編成の現状と、労働組合運動あるいは組織化されたヴォイスの現状・影響力を焦点として、日本を中心に二つの点からアプローチした。 まず男女雇用平等法制定運動を分水嶺とする日本の女性労働運動の再評価である。1950年代から現在までの代表的な女性ユニオンリーダーのインタビューと資料から、労働、生活、ケアにまつわる運動実践の特徴をとらえ、労働運動におけるケア・生活の傍流化過程に対抗する実践を後付けた。その成果は『労働運動を切り拓く』(共著)にまとめた。 もうひとつは経済的社会的な困難が歴史的に蓄積されてきた地域における保育所の労働編成の現状からのアプローチである。保育サービスの市場化過程は90年代以降の新自由主義改革による家族生活の不安定化の過程と軌を一にしている。保育労働者、利用者、コミュニティからのヴォイスはナショナルな制度改革のもとで無効化され、現場の保育労働・保育実践が個別の防波堤になっていることをフィールドワークの分析から論じた。この成果を「貧困対策の蹴る保育の最低位に向けて」(『シリーズ子どもの貧困2・遊び・育ち・経験』所収)として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
家族が重篤な病状に陥り、退院後、集中的な在宅介護が必要となったため、その対応により、研究計画全体が遅れることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは前年度の研究計画で不十分となった文献研究の検討を急ぎ、本年はオーストラリアを中心に現地調査及び情報収集を実施することを第1の目的とする。まず本年度前半に、より確実な調査設計に向けて、ケア・ケア労働をテーマとする国際研究会に参加し、オーストラリア、カナダの公共部門関連労組が提供する情報を収集するとともに、北米地域、オーストラリアでの研究動向を把握する。その知見とネットワークをもとに、調査設計を精緻化し、本年度後半に現地調査を実施する。 これら研究、調査については、まず国内での発表を進め、次年度における海外報告へとつなげる。
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Causes of Carryover |
交通費、書籍等物品購入において、見積もりと実費との間で、若干のずれが生じたため。次年度使用額については当初予算において購入を見送った書籍の購入費として使用する計画である。
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