2019 Fiscal Year Research-status Report
市場化過程における保育労働とヴォイス・メカニズムの日・米・豪の国際比較研究
Project/Area Number |
18K11901
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
萩原 久美子 下関市立大学, 経済学部, 教授 (90537060)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ケアの市場化 / 保育労働 / 労働運動 / 公共部門 / ケア労働力の編成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は日本・アメリカ・オーストラリアを対象に、保育の市場化過程と、その過程における保育労働者の発言(ヴォイス)メカニズムの比較を目的としている。本年度前半はフィールドワークに向けての情報収集と分析枠組の検討を行った。カナダ・トロントで開催された学術ネットワーク会議に参加し、保育労働とその運動形態に関するカナダ、アメリカ、ニュージーランドでの研究動向について情報収集を行った。あわせて「ケアの倫理」理論を事例分析に結びつける分析枠組を先行研究から検討している。そのほかアメリカ調査でのネットワークを土台に、Hosei-APALA sessionにて教育やケアの実態とそれに関わるアメリカでの労働運動についての情報交換の機会を得た。 以上の情報収集、調査の成果を日本社会学会大会(2019年10月、東京女子大)で報告し、以下の論点を示した。保育サービスの生産・供給の市場化過程とは(准)市場の導入によってケアの共同性をケア商品の需給関係へと転換し、市民を消費者へと転換する過程である。その過程は保育労働者の市民、労働者としての集合的ヴォイスの構築を疎外する形で進められ、運動に内在するケアをめぐる正義、平等、解放という民主主義的側面を掘り崩す。そうした動きへの対抗のあり方、運動構築において、日本では保育における公共部門の解体が広範な共闘体制の構築を阻害しているのに対し、アメリカにおいては、市場化された保育サービスが企業側の経営戦略、社会階層、購買力等によって切り刻まれ、共闘体制の構築可能性を掘り崩していることを指摘した。 保育サービスの市場化過程は90年代以降の新自由主義改革による家族生活の不安定化の過程と軌を一にしている。この観点からのフィールドワークの成果が『シリーズ子どもの貧困2』に所収、出版された(2019年5月)。この成果をシリーズ子どもの貧困編集委員シンポジウム」にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
主要には、グローバルパンデミックにより、本年度末(2月-3月)に計画をしていた現地調査を中止したためである。国際学会の中止やエントリー中止などもあり、本年度の目標は達成できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度についてもフィールドワークの実施が見通せない状態にある。そこで、第一に、保育分野への市場原理の適用過程と適用程度の相違からケアの市場化の多様性の現状把握を目的に、オーストラリア、アメリカの市場体制に関する歴史的経緯を中心とする文献調査を軸に作業を進めたい。あわせてインターネット等を通じての情報提供等の方策も検討することとする。第二に、改めて日本における市場化過程に焦点を絞り、より詳細な事例分析を行う。この事例分析を中心にして、海外の文献研究を通じた比較研究を試みる。
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Causes of Carryover |
アメリカ・オーストラリアでのフィールドワークを2-3月に実施する予定で、現地との調整を進めていたが、パンデミックによりフィールドワークの実施を見送ることになったため。
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