2020 Fiscal Year Research-status Report
市場化過程における保育労働とヴォイス・メカニズムの日・米・豪の国際比較研究
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18K11901
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
萩原 久美子 下関市立大学, 経済学部, 教授 (90537060)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ケアの市場化 / 保育労働 / 労働運動 / 公共部門 / ケア労働力の編成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は社会サービスの市場化過程における保育従事者のヴォイスチャンネルの再編過程の解明とその多様性にアプローチすることを目的としてきた。グローバルパンデミックによって現地調査の中止等を余儀なくされたが、データ収集に関する試行錯誤の過程で、国内外の研究者との共同調査や、書評・論文等を通じた意見交換、女性労働運動の担い手との連携構築によって、本研究の隣接領域における実践的な成果を得ることができた。これら議論と知見は来年度に向けた総括への示唆となった。 第一に、子ども子育て支援新制度とともに制度化された各種制度の評価に関する実績である。書評、論文コメントを通じての執筆者との意見交換によって、保育の市場化の一方で地域子育て支援事業における担い手の「非労働」化政策が見いだせること、「準市場化」を掲げた保育制度改革がむしろ改正される以前の制度に内在していた「準市場」を掘り崩したという見解について確証を得ることができた。さらに、子ども子育て支援新制度導入後の待機児童対策の動向を確認することにより、同制度の下で導入された地域型保育事業、とりわけ企業主導型保育事業において定員充足率が低く、効率性と市場化との間に存在するパラドクスを指摘した。 第二に、女性のヴォイスメカニズムをより広い観点でとらえるという機会を得た。アメリカ経済学会が実施した研究環境調査にヒントを得て、国内外の研究者と共に、研究者の養成過程と研究・就職活動におけるハラスメントの実態調査を行った。ジェンダーをめぐる構造的差別にヴォイスチャンネルの閉鎖性が組み込まれていることを確認した。また、保育、育児休業制度に関する女性労働運動と裁判事例への関わりを通して、育児責任を持つ労働者の意思決定の構造的制約をケアの倫理を援用して理論的に論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度に関しては当初より本格的な現地調査には制約があることを念頭に、文献調査とインターネット、オンラインでの情報収集作業を中心とする作業へと移行した。ただし、グローバルパンデミック収拾の見通しがつかない中で、電子史資料の入手可能なアーカイブや図書館の休館・入場制限、移動の禁止といった物理的な制約により、諸資料の探索・入手等にも制約があった。現地調査の代替としてオンラインでのインタビューを計画したが、現場や運動の担い手がCOVID19への対応で追われていることから協力要請は困難であった。以上のことから本年度の進ちょくはやや遅れることとなった。一方、成果報告においてはエントリーを進めていた国際学会が中止となったためである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が追求した現地調査を基盤とする研究の推進については本年度においても実現可能性はないと考える。よって、現地調査の代替となる調査方法に拘泥することなく、文献調査や初年度において実施した現地調査のデータを整理する。 まず、以下の作業を推進することにより学会報告の準備を進める。当初の計画で対象としたオーストラリアについては調査が今後も実施できないが、文献調査での事例、本研究の予備調査として行ったシンガポールの事例、さらに制約がありながらも現地で一定のデータを収集し得た日本、アメリカ、カナダの民営化事例など、比較対象を広げて「市場化」の方向性、その対抗方針を検討する。 次に論文として成果をまとめる。日米共に共通しているのは市場化によって労働条件の参照点の「喪失」である。同様に、保育制度それ自体が労働主体としての「保育士」の参加を前提としていない。これらを共通としながらも、アメリカでは労働運動の再構築に成功したのに対し、日本ではその端緒は見いだすことはできない。本来、オーストラリアを入れることで資本主義の多様性と連関させながらケアの市場化を検討する予定だったが、日米比較に絞っての考察を行うこととする。
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Causes of Carryover |
COVID19感染多発地域への移動および出張停止等のため現地調査の旅費、資料の入手、図書費等への使用が制約された。感染収拾の時期を待ち、調査・出張の延期を繰り返したため、年度末において使用額に大幅なずれが生じた。
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