2021 Fiscal Year Research-status Report
市場化過程における保育労働とヴォイス・メカニズムの日・米・豪の国際比較研究
Project/Area Number |
18K11901
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Research Institution | Momoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
萩原 久美子 桃山学院大学, 社会学部, 教授 (90537060)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ケアの市場化 / 保育労働 / 労働運動 / 公共部門 / ケア労働力の編成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主要な研究実績は以下である。 第一に、アメリカでの家庭的保育を担う保育労働者の組織化の背景と、そのヴォイスチャンネルの構築過程とその日米比較について学会報告を行った。報告内容は本研究初年度において実施できた現地調査、海外調査での成果と、2020年度後半から集中的に史資料の渉猟とその分析で得た知見を土台としている。 焦点化したのは米カリフォルニア州での事例である。同州では2019年、在宅保育労働者による労働組合結成と団体交渉の権利を認める州法が成立した。これにより、自営業者とみなされてきた在宅保育労働者が労働条件に関してカリフォルニア州政府との団体交渉が可能となった。連邦政府・州政府の市場を基調とする保育供給体制において、何が保育労働者、労組、市民(保護者)との関係構築の梃子となったのか。この点を特に1970年代以降の保育運動・労働運動の連携構築に関する史的検討と、アメリカ、特にカリフォルニア州における保育制度の設計と関連付けて分析、考察を行った。 第二に、日米共に保育の市場化は労働主体としての「保育士」の参加を前提としていない。しかし、アメリカでは困難ながらもそれを確保し得た史的制度的要件があった。この点を踏まえ、日本における子ども子育て支援新制度での制度的要件を「地域型保育事業」等の担い手によるヴォイスチャンネルの構築可能性と比較、検討した。 以上の検討により、第三に、日本の子ども子育て支援新制度は、保育士のヴォイスチャンネルに対する閉鎖性が高いとみられることから、自治労社会福祉評議会の協力を得て保育施設関連の労働組合役員・役職者を対象に、保育施設における労働実態と労働組合活動に関するアンケート調査を実施した。その結果を報告書『保育士の労働実態と労働組合活動に関する調査(2021)』(中間報告、122頁)にまとめ、協力者との意見交換、検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が計画した現地調査を基盤とする研究方法に拘泥することなく2021年度は文献調査を進め、初年度において実施した現地調査のデータを再度、考察したことから、日本とアメリカの比較という点で、一定の成果が見えつつある。 当初計画したオーストラリアについては現地調査は困難となっているが、日米を軸としての研究が一定程度、まとめており、その考察において文献資料によりオーストラリアを補助線として考察に加えることも可能になってきている。 最終年度に向けての論文化、報告書等による発信が可能な状態までどうにか到達しつつあると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画したオーストラリアについては現地調査は困難となっているが、日米を軸としての研究が一定程度、まとまってきている。これを土台に、文献検討、整理を通じてオーストラリアを補助線として考察に加えることも可能になってきている。 そこで、本研究は本年度を最終年度として見据え、これまでの研究成果を学会報告、論文化、報告書等を通じて発信することを計画している。
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Causes of Carryover |
COVID19の感染予防対策による出張停止、移動制限により、当初の海外渡航費を国内のインタビュー、アンケート調査へと変更したこと、研究方法の変更に伴い、海外調査にかかわる史資料、文献等の購入分に変更をしたことによる。その結果、使用額に残額、費目におけるずれが生じた。
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