2019 Fiscal Year Research-status Report
National Identity and Gender in the Global Era:Japn and the United States
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18K11906
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
石原 圭子 東海大学, 現代教養センター, 教授 (40184551)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ジェンダー / LGBT / 連邦政府 / 州政府 / リベラル / 連邦最高裁判所 / 同性結婚 / カストロ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、グローバル化時代のナショナル・アイデンティティの問題を、ジェンダーの観点から考察することを目的としている。主たる研究対象であるアメリカ合衆国では、20世紀後半から21世紀にかけて、国内で様々な対立を生みながらも、州の司法や行政においてLGBTに関連する権利が認められるようになり、最終的に連邦最高裁判所によって同性結婚が全米で承認されるに至った。これらの経過においては、様々な論理が駆使され、アメリカの理念と矛盾しない形で対立は収斂されていった。ナショナル・アイデンティティを考察する上で重要な問題がそこに含まれており、2019年度は、こうした観点から行ってきた研究をまとめる作業を進めた。 さらに、2019年度は、近年のLGBTに関する状況の変化が、人々にどのように影響を及ぼし受け入れられてきたのか、特定の地域に焦点を当て、より住民に近い観点から考察を行った。 8月に地域デザイン学会第8回全国大会において、「サンフランシスコ、カストロ・ストリートにおける地域デザイン」をテーマに発表を行った。さらに、9月上旬に、カストロのNGO関係者にインタビューを行うとともに資料収集を行った。2020年3月、学会誌に「サンフランシスコ、カストロにおける重層的地域デザイン―LGBTとIT技術者の住むリベラルな街」を発表した。取り扱ったカストロは、リベラルな傾向の強いカリフォルニア州サンフランシスコに位置し、LGBTや同性結婚についての見解が全米で分裂していた時期から、寛容な街であることを積極的に標榜してきた。また、IT企業の集まるシリコンバレーに近いことから、多くのIT企業技術者と家族が居住し始めるなど、リベラルな環境の中で新たな多文化社会が形成されつつある。多様な中の統一を掲げるアメリカの新たなナショナル・アイデンティティの可能性について考察を進める上で重要な知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、具体的な地域を対象に研究を進め、学会での研究発表、学会誌への研究ノート執筆を行い、おおむね計画に沿って進めることができた。しかし、アメリカ合衆国において、3月に予定していた資料収集はコロナウィルスの流行もあり、控えることになったため、2020年度に延期せざるを得ない状況になっている。 2019年度に進めた研究から得られた知見を、これまでの研究成果と合わせて、総合的な見地からまとめてゆく作業を行う必要があると認識しているが、その作業の準備はまだ十分でなく、2020年度に着実に進めてゆきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、アメリカ合衆国の特定の地域(カストロ)に焦点を当てLGBTに関連するコミュニティの現状について分析を行った。その研究を進めてゆく中で、従来、注目してきた連邦政府、連邦裁判所、州政府、州裁判所といったアクターの他に、グローバル産業であるIT企業が、保守的な州政策に反対して影響力を発揮するなど、アメリカ合衆国のジェンダーに関連する政治文化の方向性に少なからぬ影響を与える重要なアクターとして活動している状況がみられた。そうした活動は、アメリカのみならずヨーロッパにおいてもみられ、グローバリズムを視野におさめつつナショナル・アイデンティティを研究するにあたって、興味深い重要な事例であることが明らかになってきた。 こうした新たに得た知見をもとに、最終年度にあたる2020年度は、①ジェンダーに関連する問題について、IT企業による理念に基づいた政治的文化的活動に関する資料を収集し、分析する。できれば、コロナウィルスの感染が落ち着いた段階で、現地での資料収集を行いたいと考えている。②LGBTをはじめとするジェンダーに関連する雇用等の状況は州ごとに違いがあるため、その現状についての資料を収集し分析する。③ジェンダーに関連する問題について、連邦と州との関係性、司法と立法との関係性などの観点からこれまで遂行してきた研究成果に、①②の新たな研究成果を加えて総合的に分析し、グローバル化時代におけるナショナル・アイデンティティの問題として、計画的に執筆作業を進めてゆきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
3月に予定していたアメリカ合衆国における資料収集およびインタビューをコロナウィルスの蔓延のため延期した。2020年度、状況が改善した段階で使用することを予定している。また、2020年度は、これまでの研究成果をまとめる作業を進めることを予定しており、研究成果を発表する際の経費として利用することを予定している。
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