2019 Fiscal Year Research-status Report
Structural Change of Masculinities and Work in Global Society: the Cooperation between Fathers and Labour Unions in Germany since 1990's
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18K11909
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
石井 香江 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (70457901)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ケア労働 / 男性の育児 / 新しい社会的リスク |
Outline of Annual Research Achievements |
「ケア労働」に関する先行研究で総じて強調されるのは、1.ケア労働を行うのは多くの場合女性や特定のエスニックグループであり、このイメージが強固であることで、仕事として認知されにくく低賃金であるという非対称性、さらに、2.人間に関わる比重が大きい「他者を中心とする仕事」という特性である。多くの場合、女性が他者のニーズのために無償・有償のケア行為/労働をしてきたし、現在もしていることは事実だが、近年では育児・介護の領域を中心に男性の関与が目立つようになってきているし、歴史を振り返れば、ケア行為/労働の意味内容は変化し、その担い手は女性や特定のエスニックグループには限らない。 今年は特にドイツ語圏における「ケア労働」の意味とその概念史・研究動向についてまとめた。特に、戦後の西ドイツに目を向け、介護・育児・家事などの「ケア労働」が、どのような社会的・経済的背景から、誰によって担われてきたのか、その歴史的変遷に軽く触れ、そこに潜む問題性を浮かび上がらせるために、1970年代以降、主に経済学・社会学(特にジェンダー研究)の分野で使われるようになった「再生産労働」ないし「不払い労働」という概念、さらに1990年代末以降には倫理学・人類学などでも使用されるようになった「ケア労働」概念の意味や射程、この概念を男性にも拡張する必要性やその視角について確認した。例えば、男性性と「ケア労働」の関係を批判的に捉える視角としては、男性の「ケア労働」周縁化のメカニズムとして、「マターナル・ゲートキーピング」や「ヘゲモニーを持つ母親」という概念があることや、「男性の領域」を育児の世界に拡大させ、育児を男性性の一部とする動きがあることも分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
学務や教育との兼ね合いで、中々インタビュー分析が終わらなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年から始めた研究会では、ドイツと日本の事例を検討している。男性稼得者モデルが強固である両国でも「新しい社会的リスク」(Tayler 2004)への対応策として、近年男性のケア労働への参加に政策・研究の二つのレベルでも注目が集まっている。このように、両国の置かれた現実や制度は確かに変化しているものの、その背後にあるヘゲモニックな男性性(さらに女性性)は果たして変化しているのだろうか。エスピン-アンデルセンの福祉国家類型からすれば、日本はドイツのような保守主義レジームと、アメリカのように市場の役割の大きな自由主義レジームの「ハイブリッド」型として理解されてきたが、グローバル化の進展と雇用の流動化や不安定化ともに、こうした静態的な類型をはみ出すような変化や多様な動きも確認されている。今後は、ケア行為/労働の領域において、日独両国でヘゲモニックな男性性は果たして変化しているのかという問題を立てて、ドイツと日本における共通点と差異をあぶりだし、これを生み出す背景(社会政策・産業経済・政治文化など)にも注目したい。
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