2019 Fiscal Year Research-status Report
大強度ビームで生成するイオンを利用したポンプ機能を持つ超高真空ダクトの開発
Project/Area Number |
18K11925
|
Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
神谷 潤一郎 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (20391336)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | チタン / ゲッターポンプ / スパッタリング / 真空ダクト |
Outline of Annual Research Achievements |
ビームの大強度化が進む加速器のビームラインにおいては、低放射化材料であるチタン製の真空ダクトの利用が進んでいる。本研究は、チタン製の真空ダクト表面の酸化膜を除去し、表面に露出したチタン自体が持つ気体吸着能を利用して、真空ダクト自身をゲッターポンプ化し、ビームライン全体を一様に超高真空にする開発を実施するものである。研究計画の基盤となる開発は、チタン製真空ダクト表面のチタン酸化膜を除去する条件の確立および酸化膜除去後の気体排気性能の検証である。 昨年度はチタン製真空容器の表面のチタン酸化膜を除去することで真空容器自身が真空ポンプ化するかの検証を行うための、試験装置の設計・製作を完了し、今年度はアルゴンガスを導入して電源パラメーターを振り、放電持続する条件を確立した。さらにその条件でチタン製真空容器の表面酸化膜をスパッタリングにより除去した結果、同型真空容器を排気速度300 l/sのターボ分子ポンプで排気した場合よりも低い圧力(良い真空)を得ることができた。このことはチタン製真空容器がゲッターポンプ化した明確な証拠であり、本研究開発の目標達成の裏付けである。さらにゲッター化した真空容器からのガス成分を分析したところスパッタリングガスであるアルゴンであることが分かったため、デーキングによりアルゴンを追い出すことを試みた。その結果、10-9Pa台の極高真空に近い真空容器圧力を得ることに成功した。この圧力は、スパッタリング前より3桁も低い圧力である。評価の結果、直径100mm、長さ220mm程度の小型真空容器であっても300l/s以上の排気速度を持つことが結論づけられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請時にはビームを用いてチタン製真空容器表面の酸化膜を除去することを想定していたが、検討の結果、表面酸化膜を除去する手法はビームを用いるよりも事前のスパッタリングによる方が効率的かつ低リスクであるという結論に至った。一年目には、チタン製真空ダクト内表面のチタン酸化膜をスパッタリングで除去し、ピュアなチタンのポンプ作用を検証するための装置開発を完了した。円筒状のチタンダクトの内表面を一様に、持続してスパッタリングできる電極、電磁石配置、電源を設計・製作した。また、実際にスパッタリングを行い、スパッタリングガスであるアルゴンのガス圧、スパッタリング電圧等の条件出しを行った。二年目となる今年度はスパッタリングにより実際に真空容器自身が真空ポンプとして機能するかの実測を完了した。結果として、チタン製真空容器の内表面をスパッタリングすることで10-9Pa台という極高真空に近い状態が得られるというインパクトのある結果を得た。以上より、現在までの進捗状況については当初の計画以上に進展していると評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、この排気性能が真空容器をパージ、大気暴露しても作り出すことができるかを検証すると同時に、ビームラインにインストール後もこの排気性能を得ることができることを目標に開発を進めていく。具体的には、ビームラインに真空ダクトをインストール後に電極を用いたスパッタリングを用いることは困難であるため、昇温によって酸化膜除去ができないかを検証する。ビームラインで現実的な昇温温度は数百度である。そのためにX線光電子分光法により数百度まで加熱したチタンサンプルの酸化膜が消滅するかどうかを検証する。その条件をチタン製真空容器に適用して、排気性能が回復するかの測定を試みる。現実的な昇温温度でも排気性能が回復しない場合は、表面を低温で活性化可能なゲッター材でコーティングすることで、低温で活性化可能かつ繰り返しの活性化においても排気性能が劣化しない工夫を行う。つまり低温活性が可能だが吸着した気体をため込むボリュームが小さいコーティングと、低温活性はできないがボリュームの多い真空容器のバルクの組み合わせにより、上記課題を解決させる狙いである。
|