2020 Fiscal Year Research-status Report
量子ビームで生成するトラックポテンシャルの階層構造と飛跡構造の関係を探る
Project/Area Number |
18K11935
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
森林 健悟 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学領域, 上席研究員(定常) (70354975)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 重イオン / トラックポテンシャル / 二次電子 / 飛跡構造 / プラズマ / ポアソン方程式 / クラスターイオン |
Outline of Annual Research Achievements |
トラックポテンシャル(量子ビーム照射で生じるイオンの集まりが作る電場)と飛跡構造(エネルギー付与の空間分布)との関係の解明は、重粒子線が高い癌治療効 果を持つ理由の解明に繋がると共に量子ビームの種類とエネルギーの効果の予測を可能にする。そこで、本研究では、複数の量子ビームで生じる(i)トラックポテンシャルを分類し、(ii)トラックポテンシャルと飛跡構造との関係を探る理論・シミュレーション研究を実施し、さらに、(iii)飛跡構造とクラスターDNA損傷の生成量や細胞の変異・死との関係を探るための実験を提案する。 本年度は、(i)イオン衝突電離断面積、入射イオンの数をパラメータとしてクラスターイオンが作るトラックポテンシャルと飛跡構造との関係を探るためのシミュレーションコードを開発した。(ii)重粒子線照射で生成するプラズマに関してシミュレーションと理論の比較を行った。(ii)の研究成果に関して述べる。重粒子線が照射されると衝突電離により入射イオンの軌道上に多くの分子イオンと二次電子が発生する。ここで発生した分子イオンはトラックポテンシャルを形成するが、このトラックポテンシャルによって遅い二次電子は捕獲され、分子イオンの周辺に集まりプラズマを作る。このプラズマの分布及び大きさはポアソン方程式から求めることができるが、この方程式の解がシミュレーション結果を再現することを初めて証明することができた。さらに、プラズマの大きさ、トラックポテンシャルから二次電子が脱出できる確率を理論式から求め、それらを用いてシミュレーション結果を定性的に再現できた。このことから、プラズマがいつ、どこで生成するかを解明した。プラズマの飛跡構造への影響は大きいことからプラズマの理解はトラックポテンシャルと飛跡構造との関係解明に大いに役に立つことが期待できる。この成果は原著論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トラックポテンシャルが作り出すプラズマに関してプラズマ理論とシミュレーション結果との比較によって幅広い側面について深く理解できた。プラズマは飛跡構造に大きく影響するので、この理解は今後のクラスターイオンの研究に非常に役に立つと考えられる。また、クラスターイオンの飛跡構造シミュレーションモデルもほぼ完成した。これらの進捗状況により、おおむね進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度、完成させたクラスターイオンの飛跡構造シミュレーションコードを用いてイオン衝突電離断面積やイオンの数によって飛跡構造がどのように変わるかを解明するシミュレーションを行う予定である。この解析により、本研究課題の目的であるトラックポテンシャルが空間的に広がったときの飛跡構造を解明することが期待できる。
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Causes of Carryover |
(i)次年度使用額が生じた理由:新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、予定していた国際学会が延期となり、さらに、国内学会もオンラインとなったため出張旅費等の支出がなくなった。(ii)使用計画:本年度も当面は多くの学会がオンライン開催と発表されているため、重イオンビーム物理シミュレーションの解析をさらに進めるための高性能コンピューターの購入に使用する予定である。
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Research Products
(7 results)