2018 Fiscal Year Research-status Report
イオン注入法によるカーボン前駆体高分子からのグラファイト高効率合成に関する研究
Project/Area Number |
18K11938
|
Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
出崎 亮 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主幹研究員(定常) (10370355)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | イオン注入 / カーボン前駆体高分子 / グラファイト / 有機―無機転換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、金属イオン注入を利用したカーボン前駆体高分子へのnmオーダーの粒径を有する金属微粒子の導入技術を確立するとともに、これを利用した、酸素還元触媒性能の発現に不可欠な、炭素の一部が窒素に置換された乱層構造を有するグラファイト構造を合成する技術を確立することを目的としている。本年度においては、金属微粒子の導入技術を確立することを目的として研究を進めた。 カーボン前駆体高分子であるフェノール樹脂に対して真空中室温において100 keV Feイオンを1e+14, 1e+15, 1e+16 ions/cm^2注入し、窒素雰囲気下800℃において炭素化処理を行なった後、Fe粒子およびグラファイト構造の形成の様子について調べた。その結果、1e+14, 1e+15, 1e+16 ions/cm^2の注入量に対し、平均粒径がそれぞれ8±2, 22±7, 26±9 nm のFe粒子が生成しており、イオン注入量によって粒径を制御しながら、Fe粒子を導入できる可能性を見出した。また、1e+15 ions/cm^2以上の注入量において、Fe粒子の周辺に乱層構造を有するグラファイト構造が形成されていることを明らかにした。非注入試料および1e+14 ions/cm^2注入試料においてグラファイト構造の形成が確認できなかったこと、また、フェノール樹脂に800℃において2 MeV電子線を照射した場合でもグラファイト構造が形成されなかったことから、グラファイト構造の形成には、nmオーダーの粒径を有するFe粒子が必要であるとともに、イオン照射による高エネルギー付与に伴うカーボン前駆体高分子の十分な架橋反応が必要であることが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度においては、当初目的としていた金属イオン注入を利用したカーボン前駆体高分子へのnmオーダーの粒径を有する金属微粒子の導入技術の確立に目処を付けることができた。実験の実施に当たり、本年度は、量子科学技術研究開発機構 高崎量子応用研究所の400 keVイオン注入装置を5回利用して所定の成果を得た。来年度においても5回のイオン注入実験が実施できるようマシンタイムを確保しており、研究遂行に特段の支障はない。
|
Strategy for Future Research Activity |
金属イオン注入を利用したカーボン前駆体高分子へのnmオーダーの粒径を有する金属微粒子の精密な導入技術を確立するため、イオン注入・その後の熱処理条件と金属析出挙動の関係をより詳細に調べる。また、金属イオンを注入したカーボン前駆体高分子の有機-無機転換反応を重量変化、ガス発生挙動、化学構造変化、微細構造・組成変化の面から調べ、グラファイト構造の形成挙動に及ぼすイオン注入条件の影響を明らかにする。以上の研究から得られる知見を基に、本研究の手法を利用した、酸素還元触媒性能の発現に不可欠な、炭素の一部が窒素に置換された乱層構造を有するグラファイト構造を合成する技術を確立するため、窒素を分子構造中に含むカーボン前駆体高分子を出発物質として金属イオン注入・炭素化の処理を行なった後、酸素還元触媒性能を評価する。その触媒性能評価結果をイオン注入条件(エネルギー、照射量)・炭素化処理条件(温度、雰囲気)へフィードバックをかけ触媒性能の最大化を目指す。
|
Causes of Carryover |
理由:イオン注入実験用試料ホルダの購入を計画していたが、平成30年度はその仕様案の決定に留まったため。
計画:イオン注入実験用試料ホルダの他、試薬類等の各種実験消耗品を購入するとともに、Carbon 2019、The 13th Pacific Rim Conference on Ceramic and Glass Technology (PACRIM13)、日本セラミックス協会等の会議における研究成果発表のための旅費および参加費として予算を執行する計画である。
|