2018 Fiscal Year Research-status Report
将棋棋士の指し手案出における思考の神経メカニズムとその個性
Project/Area Number |
18K12007
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中谷 裕教 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30333868)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 小脳 / 直観 / 思考 / 熟練 / 将棋 / fMRI |
Outline of Annual Research Achievements |
小脳における内部モデル獲得の性質に基づいて、熟練者の直観的な思考における小脳の役割とそのメカニズムを明らかにすることを目的にしている。 小脳の代表的な機能は運動の学習と制御である。運動学習では最初、練習を通して制御対象である手足などのメンタルモデルが大脳皮質内に形成される。メンタルモデルができると当初はそれを使って運動制御を行うが、ある段階で小脳がメンタルモデルを学習し、小脳内に内部モデルが獲得される。小脳での情報処理は無意識的で素早いため、熟練者は無意識的に素早く運動を行うことができる。 無意識的で素早い処理の対象が運動でなく思考であれば、それは直観的な思考を実現する。小脳が直観的な思考を実現させる際に、大脳のどの領域から情報の入力を得て、また大脳のどの領域に出力を送っているのかを明らかにするために、将棋高段者に被験者としての研究協力を依頼し、将棋パズルである詰将棋を用いた思考実験を行った。 詰将棋の問題を素早く直観的に解けた時には小脳に活動が観察されたが、同時に頭頂葉の楔前部や大脳基底核の線条体にも活動が観察された。脳活動の時間的な特性は小脳と楔前部や線条体では大きく異なっており、小脳は思考中に持続的な活動を示したのに対し、楔前部や線条体は思考の前半部分で活動を示した。一方、楔前部や線条体が活動を示さない時は小脳も活動を示さず、被験者は制限時間内に詰将棋を解くことが出来なかった。 この結果から、楔前部や線条体からの情報を受けて小脳が直観的な思考を実現しているのだと思われる。一方、小脳がどこに情報を出力しているかについての知見を得ることはできなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、安静時脳活動を解析することで小脳と大脳の機能的結合を明らかにする予定であった。安静時脳活動を解析する際には、小脳と大脳のそれぞれの領野が関連しているかをある程度絞り込んでおく必要があり、そのために詰将棋を用いた思考課題の実験を行った。 実験を行った結果、楔前部や線条体が小脳に情報を入力している可能性が得られた。安静時脳活動の解析では脳の領野間の相関を調べるのが一般的であるため情報が流れる方向を推定することは難しい。一方、課題を用いた実験では課題提示のタイミングに合わせてBOLD信号の持続時間などを評価することで領野間の活動の時間的な関係を調べることができ、情報の方向を推定できる。 そのため、この寄り道的な実験を行ったことは有意義であったと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
安静時脳活動の実験については、これまでに12人の将棋高段者を対象にして実施している。二年目は被験者数を増やし、当初の予定通りに小脳と大脳の領域間の機能的結合を評価する予定である。
|
Causes of Carryover |
当初予定していた安静時脳活動の計測実験を行う前に、予備的な実験として詰将棋を用いた思考実験を行ったが、そのデータ解析に予想以上に時間がかかってしまい、当初予定していた数の実験を行えなかった。 予備実験の解析が終わったので、次年度は予定通りの数の実験を行う予定である。
|