2018 Fiscal Year Research-status Report
早期教育のブローカ野における音楽・行為表象への影響:子どもピアニストのブローカ野
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18K12011
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
脇田 真清 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (40301270)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ブローカ野 / 音楽 / 行為 / 言語 / 子ども / 発達 / 近赤外分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
大脳左半球の下前頭野(ブローカ野)は,言語(特に文法処理),音楽(リズムなど)や行為(ダンスなど)における系列・階層処理にドメイン普遍的に関わる。言語ドメインにおいて,言語機能は脳の解剖学的成熟に裏付けられるが,文法処理機能の側性化の発達は言語能力と関連するとされる。それでは,音楽ドメインにおいてもピアノの演奏スキルが高ければ,子どもであっても音楽関連のドメインの階層処理は下前頭前野では左半球が優位になのであろうか。脳における音楽と言語の処理能力が対応づけられるなら,音楽の処理能力で言語能力を伸ばしたり,補ったりできる可能性を示唆することになる。 本研究の目的は,ブローカ野の階層処理の発達を言語ドメインと音楽ドメインとで比較することである。そのために,夏までに備品の購入などを済ませ,以下の二つの課題をおこなっている時の小学生の両側下前頭前野の活動を近赤外分光法によって調べた。 (1)メロディ記憶課題:二つの既知のメロディを呈示してそれらの異同を判断する過程と,二つの未知のメロディを呈示してそれらの異同を判断する過程とで,記憶に関わる負荷がブローカ野周辺の活動に反映するかどうかを調べた。この課題は被験者全員が参加した。 (2)音楽―行為ストループ課題:鍵盤上の手の動きを映した映像を呈示し弾かれているメロディを推測してもらった。その時に,視覚刺激と同期して聴覚的に与えられるメロディと視覚的に与えられるメロディとが一致している場合と一致しない場合とで,手の動きからメロディを抽出する過程が聴覚からの干渉による負荷がブローカ野周辺の活動に反映するかどうかを調べた。ピアノ学習歴にかかわらず,この課題を遂行できる被験者が参加した。 結果,体動や頭髪の影響により皮質活動が計測できない被験者はいたが,標的部位から課題に関連した皮質活動を記録できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は研究計画の初年度であるため,刺激作成や刺激定時時間などの実験プロトコルを確立させることを目標とした。おもに以下の2点について,予備実験の結果,当初の計画を改善する必要があったため,実験の開始が遅れたが,実験プロトコルを確立できた。 (1)音楽ドメインの言語ドメインとの違いを強調するため,当初は言語ドメインでは文法などの階層処理が左半球に局在しないはずの8歳未満の小学生を被験者としていた。ところが,小学校低学年児童では教示を理解しなかったり,姿勢を維持できなかったりした被験者が多かった。そのため,言語ドメインでは文法などの階層処理の左右差が現れ始める時期を含む8歳以上を被験者とすることにした。この改善により,皮質活動の記録できない被験者の割合は著しく減少した。 (2)申請者が成人を対象とした研究課題で用いたメロディのみを提示する予定であった。しかし,子どもが実験に飽きないよう刺激のバリエーションを増やし,メロディー刺激を動画刺激に埋め込んだ。この改善によって,成人を対象とした実験では暗間隔であった刺激間間隔でも,被験者は刺激への注意を維持することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に確立させたプロトコルに従って被験者を募り,データを蓄積する。国内学会で発表などをおこない,データが十分に蓄積できれば今年度中に計画の完了を目指す。 解決されなかった問題として,小学校高学年の被験者にはバイエル終了程度のスキルを持つ児童の割合が高くなるが,こうした被験者では皮質活動の測定が密度の高い頭髪に干渉されることがあった。この原因は,使用している近赤外分光装置では,測定中の被験者への負担軽減のため,測定用プローブと頭皮との接触点が平面になっているためである。そのため,測定プローブの形状の改良を進めながら,計画を推進する。
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Causes of Carryover |
計画の初年度である本年度では,確立させることを優先したため,実験環境の整備と刺激作成のほか,問題点の改善に長期の準備期間を要した。そのため十分な回数の実験を行うことができず,当初予定していた謝金分が未使用となった。しかし,このことによる計画全体の実施に影響はなく,この繰越分は次年度に被験者への謝礼として使用する予定である。
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