2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K12029
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
上野 裕則 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (70518240)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 水頭症 / 繊毛 / 脳室 / 流体 / ダイニン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年は主に野生型マウスとDpcdノックアウトマウスにおける脳室の形態解析と脳室内の流体をトレーサー粒子を用いて解析し比較した。目的遺伝子に変異が起こっていることを確認するため、ノックアウトマウスを用いた解析にはあらかじめPCR法によってDpcd遺伝子の両方に変異が起こっていることをチェックした。遺伝子変異の確認後にノックアウトマウスを麻酔し、脳内のMRIを撮影し、脳室の形態を確認して水頭症の症状や進行状況を野生型マウスと比較した。脳室には複数あり、側脳室の形態の他、第3脳室、第4脳室、側脳室から第3脳室へつながるモンロー孔、第3脳室から第4脳室へつながる中脳水道など、水頭症に関与すると考えられるいくつかの部位の形態も野生型と比較し確認することによって、脳室が大きくなる原因について推察した。また、ノックアウトマウスの脳を取り出し、側脳室、第3脳室、第4脳室付近にトレーサー粒子(ポリスチレンビーズ)を付加し、髄液の流れを確認した。その結果、ノックアウトマウスの脳室内の流体の速度は野生型とは大きく異なり遅くなっていることが分かった。さらに、繊毛内に存在する内腕ダイニンの発現量についても定量PCR法によって確認した。ノックアウトマウスから得た脳からmRNAを抽出し、逆転写後にリアルタイムPCRを行い、目的遺伝子の発現量を定量した。その結果、複数ある内腕ダイニン遺伝子のうちのいくつかの遺伝子について、ノックアウトマウスでは減少していることが明らかとなった。これらの成果は国内学会などで発表し、他の研究者にも高く評価されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は研究計画の段階で当初予定していた通り進行しており、特に遅れている事柄はない。それに加え、当初予想していなかった結果も得られたため、急遽計画していなかった実験にも取り組んでおり、研究成果も順調に得られている。ノックアウトマウスの脳室の形態についてはMRIでかなり細かな構造まで観察することが出来、野生型とDpcdノックアウトマウスで脳室の形態の違いを観察することが出来た。脳室の流体解析は、ノックアウトマウスで脳内にトレーサー粒子を打ち込むことが困難であった。そのため、取り出した脳の脳室に直接トレーサー粒子を添加することによって、部位別に脳内の流体速度を計測することに成功した。上記の結果より、繊毛運動自体に原因があるのではないかと考え、繊毛運動の根源であるモータータンパク質、ダイニンに着目した。過去の文献によると内腕ダイニンにその原因があると言及されているものの、遺伝子までは特定されていなかった。内腕ダイニンの遺伝子は複数存在していることが知られているが、本研究課題では、そのうちある特定の内腕ダイニンの発現量が、Dpcdノックアウトマウスで減少している事を定量PCR法によって明らかにすることが出来た。現在は得られた結果のまとめと、次年度に向けた研究の準備を行っている。学会発表も2件行い、他の研究者からも良好な反応も得られている。以上の成果に基づき、自己点検を行い、本研究課題はおおむね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度以降も当初の計画通り研究を進めていく。 1.繊毛細胞の分布と繊毛運動の解析 平成30年度の結果から、各脳室や脳室同士をつないでいる孔に特に異常が認められなかったことから、ノックアウトマウスで水頭症を発症する原因は脳室の繊毛運動の異常によって水流がうまく形成されないために起こるのではないかと考えた。よって、平成31年度は脳室の繊毛細胞について解析する。脳室部分を抗アセチル化チューブリン抗体と抗アクチン抗体を用いた間接蛍光抗体法により側脳室、第3脳室、第4脳室、またモンロー孔や中脳水道などを染色し、野生型と比較することにより、ノックアウトマウスで繊毛細胞の分布に異常がないかを確認する。そもそもノックアウトマウスで繊毛細胞の数が違う場合には、繊毛の絶対量が少ないので、脳室内の流れも形成され難い。これを確かめるため本研究では免疫染色を行い、ある区域の決まった枠内にどれくらいの繊毛細胞が分布しているのかを定量化する。また、ハイスピードカメラを用いて繊毛運動自体も撮影し、周波数、振幅、波形などに異常が見られないかを確認する。撮影は位相差顕微鏡、暗視野顕微鏡、微分干渉顕微鏡などを使用して脳の繊毛が良く見えるよう、コンディションを整える。 2.脳繊毛のSEM、TEM観察 脳繊毛の詳細な形態情報を得るため、走査型顕微鏡(SEM)と透過型顕微鏡(TEM)を用いて脳室繊毛の観察を行う。固定法や観察方法は既に過去の論文があり、それに従ってノックアウトマウスで行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が718円生じたが、ほぼ当初の計画通り予算を執行できたと考えてよい。次年度使用額は次年度の予算と合わせ、物品費などに使用する予定である。
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