2019 Fiscal Year Research-status Report
生体組織内反応性ナノ粒子によるがん組織固定化技術の開発
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18K12090
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
秋元 淳 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (80649682)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ナノ粒子 / 刺激応答性 / がん治療 / 組織固定 / ドラッグデリバリーシステム / 反応制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ナノ粒子を利用してがん細胞・組織周辺にネットワーク構造を形成させることでがん細胞・組織の機能を物理的に阻害する方法を開発することを目的とする。がん組織を生体内で化学反応により固定するには、固定剤を腫瘍組織に送達する技術および固定を目的部位のみで行うためのスイッチ機能が必要となる。本研究では、これを実現するための温度応答性ナノ粒子を利用したがん組織固定化剤の開発を目指す。具体的には、ナノ粒子に温度応答性を付与し、温度変化により温度応答性高分子の物理化学的変化を利用して、タンパク質や細胞などとの反応を制御することにより、細胞周辺に架橋構造を形成する方法について検討する。 今年度は、温度上昇により、官能基の反応性が制御可能なナノ粒子の合成をおこなった。ナノ粒子に官能基を導入し、その表面を温度応答性高分子で被覆した。この粒子は、温度応答性高分子が膨潤して官能基を被覆している状態では、導入した官能基は外界の分子との反応性が低下し、一方、温度を上昇させると、温度応答性高分子が収縮するために官能基が表面に露出して、官能基の反応性を向上させることができた。この温度変化による反応性の違いを利用することで、温度上昇によりナノ粒子によるネットワーク構造を形成させることが可能になった。 また、ナノ粒子を細胞膜付近に誘導する方法を探索するために正電荷を導入したナノ粒子を作製した。正電荷を導入したナノ粒子は細胞膜と相互作用するが、非常に細胞毒性を示す。そこで、細胞毒性を緩和させるために、正電荷ナノ粒子を非電荷高分子で被覆した。このナノ粒子は細胞毒性を緩和し、また、がん細胞の細胞膜表面に集積することがわかった。 以上の結果より、これらの方法を組み合わせることにより、ナノ粒子により細胞外でネットワークを構築する方法が可能になると期待できる結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナノ粒子を利用してがん細胞・組織周辺にネットワーク構造を形成させるために、温度応答性ナノ粒子の開発をおこなってきた。これまでに、温度降下、上昇によりナノ粒子に導入した官能基の反応性を制御する方法を開発してきたが、本年度は、温度上昇でも反応性を制御可能なナノ粒子の作製にも成功し、温度応答性高分子の温度変化に応答した構造・化学的変化によって、外界の高分子化合物との反応を制御する方法論を確立した。また、このナノ粒子は、温度変化による反応性の促進を利用することにより、迅速にゲル化してネットワークを形成することを明らかとした。これにより、温度変化を利用してネットワーク形成を制御できることが示された。 また、ナノ粒子と細胞の相互作用を制御するための方法についても検討した。ナノ粒子を細胞外で反応させるためには、ナノ粒子を細胞膜付近に誘導する必要がある。そこで、細胞膜と相互作用する正電荷をもつナノ粒子を作製し、その粒子と細胞の相互作用について検討した。正電荷をもつナノ粒子自体は非常に高い毒性をもつが、正電荷を有する部位を非電化高分子で被覆することにより、正電荷由来の毒性を緩和させることに成功した。一方このナノ粒子はがん細胞の細胞膜に高く集積することが確認された。 以上の結果より、温度に応答して官能基の反応性を制御する方法と、ナノ粒子と細胞の相互作用を制御する方法を組み合わせることにより、ナノ粒子により細胞外でネットワークを構築する方法が可能になると期待できる結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
ナノ粒子表面に導入した官能基を温度応答性高分子の構造変化で制御する方法を開発してきた。これまで、導入してきた官能基は、一級アミンやチオールなどと特異的に反応するものを利用し、ターゲットをたんぱく質などの高分子としてきた。しかし、これらの官能基は、細胞培養液や血液に大量に含まれる低分子化合物とも反応してしまうため、温度応答性高分子の構造変化では低分子との反応は制御できないことが分かった。そこで、これらを解決するために、導入する官能基を変更し、ターゲットに到達する前に低分子化合物との反応性を示さないものに変更する。これらのナノ粒子を細胞表面に誘導して、化学反応を促進して材料を架橋することで、目的とする細胞表面に高分子ネットワークを構築する方法について検討する。
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Causes of Carryover |
今年度内で発表予定であった学会が複数中止になり旅費の使用予定の大幅な変更が生じた。今年度から、細胞培養をメインとした実験を行うことから、繰り越した金額を含めることで順調に実験を遂行できると考えている。
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Research Products
(4 results)