2018 Fiscal Year Research-status Report
Development of effective pre-treatment method for the detection of Mycobacteria
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18K12125
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Research Institution | 公益財団法人結核予防会 結核研究所 |
Principal Investigator |
御手洗 聡 公益財団法人結核予防会 結核研究所, 抗酸菌部, 部長 (30501671)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 結核菌 / 誘電泳動 / 診断 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在最も高感度な液体培養法でも100 CFU~/mL程度の菌濃度を必要とし、例えば肺結核患者全体の80%強までしか細菌学的に証明できない。さらに検体中の結核菌濃度が低いほど培養陽性までに時間がかかる。核酸増幅法は迅速だが感度の点で液体培地に劣る。原因は検体中から迅速性と感度を確保するのに十分な結核菌を回収・濃縮できないことにあり、この問題を解決し、結核菌検査を高感度化・迅速化するため、臨床検体からの抗酸菌検出感度を現時点の100倍程度(1 CFU/mL程度)に高めることを目的とする。臨床検体からの結核菌検出感度が高くなることにより、より正確な細菌学的診断が可能となる。 平成30年度は臨床分離株を含む複数の結核菌株を培養し、懸濁液を作成した。この際、分散媒を均質化処理後の喀痰として、結核菌を捕獲するのに最適な電流・電圧および周波数が特定可能か検討した。喀痰を均質化するための試薬をセミアルカリプロテアーゼ、NアセチルLシステイン、その他で検討した。電極に結核菌を捕獲した状態でバッファー洗浄することが可能か(洗浄液での捕獲特性の変化)を評価し、最適な検体処理・誘電泳動条件を決定した。 本年度の研究予定はほぼ順調に進展し、バッファー中の結核菌を最も効率的に誘電泳動にて捕捉する条件を決定することができた。問題点として、喀痰自体の導電率が誘電泳動に適切でないことが判明したこと、さらに従来の喀痰均質化技術のほとんどが導電率を上げる方向に作用し、誘電泳動の実施に必要なレベルまで分散媒の導電率を下げる必要性があることが明確となった。現在、既に複数の方法で導電率を下げることに成功しているが、実験手順における結核菌のロスを最小化するため、さらに改良が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず結核菌における最適な誘電泳動の設定をBCG培養液で検討した。液体培地(Mycobroth)でBCG予測菌量1.0×10^5-6の培養液を準備し、培養液の導電率を下げるために懸濁液であるMycobrothをエレスタバッファーで置換した。検体をエレスタ試作機(AFIテクノロジー)で誘電泳動を行った。誘電泳動では一定の電圧で流速と周波数を適宜変更した。チップに捕捉されたBCGを回収し、BCG菌量をReal-time PCRで定量的に測定した。捕捉されたBCGの定量結果から誘電泳動の最適設定は周波数2,500 kHz、電圧 10 V、流速 1mL/hと決定した。 続いて誘電泳動による濃縮効果をBCG培養液で検討した。上記の通りに検体を作製し、誘電泳動を行った。BCG懸濁液total 5mLを上記設定で5時間誘電泳動施行し、チップに捕捉された菌を回収しReal-time PCRで定量的に捕捉菌量を誘電泳動前後で確認した。当初、濃縮効果は約5-10倍という結果であったがチップの改良(捕捉面積の拡大)により、現時点では約20倍の濃縮効果が得られている。 現在は臨床検体、主に喀痰検体において誘電泳動を適切に行うための前処理の検討を行っている。誘電泳動を利用し、効率的な抗酸菌検査を行うためには喀痰検体の均一化・汚染除去を行いつつ、検体の導電率を低下させる必要がある。喀痰の均一化・汚染除去にOMNIgeneを使用している。この理由としては誘電泳動法は喀痰均一化後の検体処理に時間を要するため、時間経過とともに菌が死滅する可能性が高い従来のNALC-NaOHでの処理は適さないためである。またイオン交換樹脂を検体に混合することで導電率を1/1000程度に低下させることができることが確認された。しかしイオン交換樹脂に菌が付着することが問題となっており、喀痰の前処理法確立に至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
喀痰の前処理でイオン交換樹脂を使用する場合はイオン交換樹脂と菌の付着を防ぐことが必要であり、検体とイオン交換樹脂をフィルターで仕切り、フィルター間でイオン交換のみを行うことで対応可能か検討中である。また、イオン交換樹脂を使用せず検体の導電率を下げる方法として懸濁液のバッファー置換を検討する。現在検体中の菌をロスせずバッファー置換を行う方法を作成し、実験中である。この方法が成功すれば、元の喀痰量を4mlとした場合、全ての結核菌を50uLまで濃縮できるので、80倍濃縮が可能となると推定される(目標値100倍濃縮)。 前処理の手法を確立した後に、実際の結核患者の臨床検体を処理し、従来法であるNALC-NaOH処理・遠心集菌法と比較し、誘電泳動を利用した前処理が核酸増幅効率、培養陽性度、培養陽性までの時間の点において従来法よりも優位であるかどうかの検討を行う。 また誘電泳動を利用して集菌した検体からメタゲノム解析を実施し、その結果を指標としつつ結核菌単体で分離可能な条件が設定可能かも検討する。その場合、喀痰前処理は抗酸菌検査に特化した手法が必要とならない可能性もある。具体的には、喀痰を粉末状の中性プロテアーゼなどで均一化し、誘電泳動で喀痰中の細菌叢を網羅的に捕捉する。誘電泳動の条件設定によっては結核菌を選択的(相対的場合も含む)に分離する可能性も考慮される。結核菌が十分量分離可能であれば、直接ゲノム解析して耐性変異の検出が可能か検討する。
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Causes of Carryover |
誘電泳動の最適条件を決定する時点で、使用しているエレスタチップ(誘電泳動用マイクロ流路)の容量が不十分であることが判明したため、より捕捉面積の大きなチップの開発をAFIテクノロジーズと行ったが、プロトタイプのみで適切なテストタイプが作製できなかったため、その購入費用が2018年度中には不要となった。2019年度には適切なテストタイプ、量産タイプが利用可能となるため、それらの購入に余剰費を充てる予定である。 結核菌の捕捉条件を適正化したマイクロ流路チップを用い、さらに結核菌をロスせずバッファー置換を行う方法を確立し、濃縮系としての誘電泳動法を確立する。その後は臨床検体に直接応用し、従来集菌法に対する優位性を評価する。さらに検体からの直接ゲノム解析による遺伝子型別、耐性遺伝子変異検出を試行する。
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