2021 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of Pharmaceutical Characteristics of Iodinated Contrast Media and Evaluation of Enhanced X-ray Images
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18K12129
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
今井 國治 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (20335053)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 啓輔 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (40469937)
池田 充 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (50184437) [Withdrawn]
川浦 稚代 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (60324422)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 被ばく線量の増幅効果 / 造影剤の希釈率 / 造影剤の副作用 / シールド効果 / かご状水クラスタ / 構造的欠陥 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究では、脳血管DSA検査を対象に、被ばく線量増幅効果を含む造影剤の副作用、造影剤の効能である造影能、DSA画像の画質について詳細な検討を行うことである。本年度はヨード造影剤の増幅効果についてシミュレーションによる解析を実施し、特に、造影剤の希釈効果と被ばく線量増幅効果について重点的に検討した。 本解析では、臨床を想定し、1.7-3.3倍希釈したiopamidol、iohexol、iodixanolを対象に被ばく線量を評価した。この解析で使用した頭部数値ファントムは、楕円柱状の脳実質(長径8.5cm、短径7.5cm、高さ9cm)を厚さ1cmの骨組織で覆ったものであり、片側の脳実質内に造影剤を一様に配置し、線量一定の条件(X線管電圧80kV、透視時間1秒)でMonte-Carloシミュレーションによる被ばく線量評価を行った。その際、脳実質内の造影剤量及び分布は、先行研究で検討したCompartmentモデルと血管走行のFractal解析の結果に基づいて推測し、各造影剤の流速は、Arrheniusの法則に基づいて推定した。さらに、脳実質内の被ばく線量は、X線光子1個当たりの吸収エネルギーとして評価した。 被ばく線量は造影剤の希釈率が高いほど、増大する傾向を示したが、造影剤の種類による特性の違いは認められなかった。以前、脳血管撮像時を対象とした解析では造影剤の粘性が被ばく線量の増大に深く関与していた。これを考慮すると、希釈による粘性低下は造影剤の拡散流動性を高めるため、X線光子との衝突断面積が増大し、造影剤からの二次電子放出が被ばく線量を増大させたと考えられる。以上のことから、造影剤の希釈率が高いと、必然的に生じる造影能の低下と被ばく線量の増大に繋がることが示唆された。なお、この研究内容は脳外科領域の学術大会で発表したものであり、座長推薦による優秀研究に選ばれたことを付記する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
科研採択後、造影剤による被ばく線量増幅効果及び造影剤による副作用発症に関する検討を行ってきた。被ばく線量増幅効果については、主にMonte-Carloシミュレーションによる被ばく線量評価を行った。その際、脳血管内の造影剤量及び分布は、先行研究で検討したCompartmentモデルと血管走行のFractal解析の結果に基づいて推測した。その結果、造影剤の種類や撮像方向、さらに造影剤の希釈率によって、被ばく線量増幅効果に違いがあることが示され、造影剤量や造影剤の広がりと深く関連することが示唆された。これはX線光子と造影剤分子との相互作用に起因する衝突断面積が重要な要因であることを示しており、造影剤分子からの二次電子放出が、被ばく線量増幅効果の支配要因であると言う我々の仮説を裏付ける解析結果となった。しかし、この結果はシミュレーションによるものであり、実測による結果ではない。当初の研究計画では、今年度、実測による被ばく線量評価を行う予定であったが、コロナウィルス感染拡大に伴い、附属病院での実験ができなくなったため、未だ、実測による検討は実施できていない。 一方、副作用発症に関する検討では、かご状の水クラスタが造影剤分子を取り囲むように形成することが計算上確認され、これが造影剤の疎水部分をシールドすることによって、副作用の発症が抑えられると考察した。これは科研申請段階で提案した仮説であり、その正当性を証明したことになる。さらに、この水クラスタには構造的な欠陥部分が存在し、この部分がタンパク質との結合サイトになるのではないかとも考察した。つまり、この構造的欠陥部分が存在する以上、副作用発症は不可避であることが示され、これまでにない新たな知見が、この解析を通じて得られたのではないかと考えている。 以上の結果から、実測による被ばく線量評価を除けば、本申請研究は概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、水クラスタがかご状に水素結合することによって、血漿中のタンパク質との疎水結合が抑制されることを示唆したが、実際の血漿内には、カリウム、ナトリウム、カルシウム及び塩素イオンと言った電解質が存在しており、これらの静電的な効果が、かご状の水クラスタにどのような影響を及ぼすかについては明らかになっていない。そこで次年度は、かご状の水クラスタに及ぼす電解質の効果について検討する。さらに、これまでは造影剤1分子を対象に水分子との相互作用を検討してきたが、次年度では、造影剤分子同士の相互作用に水分子がどのように関与するかを検討した上で、造影剤分子間の疎水結合によるシールド効果が発現するのかについて検討する。この現象が量子化学的に実証できれば、かご状クラスタによるシールド効果に加え、新たな仮説として疎水結合によるシールド効果も提唱できると考えている。 また、「現在までの進捗状況」の部分で述べたように、コロナウィルス感染拡大に伴い、附属病院における被ばく線量の実測は行っていない。次年度では被ばく線量評価を行うが、その具体的な測定方法については、昨年の報告書通りに行う予定で、市販の非イオン性ヨード製剤をファントム内の模擬血管に注入し、その下で、造影剤量と被ばく線量との関係を測定する。さらに、その結果とシミュレーションとの比較を行い、造影剤による被ばく線量増幅効果について詳細に検討する。 昨年度は、コロナウィルス関連で、予定していただけの研究成果の発表ができなかった。現在のところ、例年通り学会が開催される予定であることから、昨年度できなかった成果発表に加え、今年度の研究成果も精力的に発表していく予定である。さらに、これまで説明してきた水クラスタによるヨード原子のシールド効果や造影剤の被ばく線量増幅効果に関しては、学術論文としてまとめると共に、世界に向けて発信していく予定である。
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Causes of Carryover |
計画当初では、2019年に脳血管造影検査におけるX線画像の画質と被ばく線量の関係を検討する予定であった。しかし、検討に必要である脳血管ファントムの作成に遅れが生じ、2020年初頭から、この検討を開始した。画質評価に必要となる画像については、ファントム完成直後に取得し、2019年度に共同研究者が定年退職すると言うこともあり、担当していただく画質評価については終了した。一方、実測による被ばく線量評価については、画質解析終了後に行う予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、附属病院での実施が、事実上不可能となり、未だ、脳血管ファントムによる線量解析が行えていない。そのため、検討に必要となる造影剤の購入も行っていない。これに加え、2021年度に予定していた学会発表が現地開催ではなく、すべてweb開催となったため、予定していた出張ができなくなった。以上の理由を考慮に入れ、本年度は、造影剤の購入費として繰越金を使用すると共に、今後の推進方策で述べたように、積極的に学会発表等を行う上で必要となる出張費に使用する。これに関連して、申請期間内で得られた研究成果を学術論文としてまとめるため、英文校閲費や投稿・掲載料に充てる予定である。さらに、不測の事態としてシミュレーション計算等に使用しているコンピュータが使用不可能になった場合、研究推進上の問題となるため、コンピュータの購入費として充当する。
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