2019 Fiscal Year Research-status Report
パーキンソン病患者におけるすくみ足への情動の関与を可視化する新しい評価方法の開発
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18K12154
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
石井 光昭 佛教大学, 保健医療技術学部, 教授 (70445972)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | すくみ足 / 情動 / 呼吸 / ウェアラブルセンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
情動がすくみ足の誘発や程度に影響していることはよく知られているが,実際のすくみ足の状況に情動が関与しているかどうかの判断は容易ではない.一方,すくみ足に呼吸困難を伴うことも臨床上しばしば経験される.また,情動と呼吸に関連があることは近年解明されている.したがって,実生活で経験する一部のすくみ足には,情動に関連する呼吸の変化を伴う可能性があるという仮説のもと研究を実施した.また,これまで,前後方向の加速度の変化でとらえていたすくみ足の定量化を,すくみ指数,ストライド長,ストライド時間の変動係数で,重心の左右動揺の大きさ,両脚支持時間を加えて行った. 当該年度では,呼吸パターンをHexoskin wearable vestを用いて測定したデータを分析した結果,すくみ足のない歩行中の呼吸パターンは規則的であったが,すくみ足を呈した場合は,すくんでいる最中だけでなく,その直前にも呼吸パターンの変化(不規則または高肺気量位での無呼吸)が生じた.すくみ足から脱却する前に深呼気がみられた. 高肺気量位での無呼吸は,瞬間的に,呼吸の自動的なコントロールが困難になることが推測される.すくみ足から脱却する前に深呼気は,高肺気量位で固定した呼吸を,意識的コントロールすることで改善させるための代償的な方策と推察された.結果として,情動負荷をリセットさせると考えられる.上記の結果の一部は,「進捗状況」欄で示す方法によって公表した. 計画通り,すくみ足と関連した情動を反映する呼吸応答を可視化することができた.呼吸反応を理解することは,すくみ足を有する患者の情動の関与に対応していくための,有用な情報を提供する可能性がある.すくみ足に関連した呼吸異常は,進行したパーキンソン病患者の臨床徴候のひとつかもしれない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
データを分析した結果,サンプル数は小さく,普遍的な結論とするためには,サンプリング数を増やして検討する必要があるけれど,仮説「生活で経験する一部のすくみ足には,情動に関連する呼吸の変化を伴う可能性がある」を裏付ける知見が得られた.つまり,実際のすくみ足の状況に情動が関与しているかどうかの判断の根拠となる評価方法を見出すことができた. また,上記に加えて,すくみ足を,すくみ指数の増加,ストライド長の減少,ストライド時間の変動係数の増加,重心の左右動揺の減少,両脚支持時間の増加として客観的に示すことができた.ウェアラブルセンサーは,モーションキャプチャー装置や床反力のように測定場所が限定されることなく,肉眼では判別できない違いを客観的に捉え,簡便にすくみ足を定量化できる方法である.したがって,実生活でのすくみ足の検出に有用である.また,今回使用した機器は,両足部と腰部に装着したセンサーで加速度と角加速度を測定している.これは従来の加速度センサーのような時間的因子だけでなく,空間的因子の推定が可能である.したがってすくみ足を種々の側面で特徴を明らかにできた.これによって,呼吸の変化と実際のすくみ足の関連をより明確にできた. 結果の一部は,World Parkinson Congress(京都), 日本パーキンソン病・運動障害コングレス(東京)にてポスター発表した.また,雑誌「理学療法」(メディカルプレス,2019年7月)における寄稿論文,今年度刊行予定の書籍(医歯薬出版)にも,一部を紹介することができた. 今後,論文化を進めていく必要があるが,これまでの進捗は順調であり,時間的な余裕をもって,論文作成に取り組んでいくことができる.
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Strategy for Future Research Activity |
心拍数,皮膚抵抗とすくみ足の関係を論じた報告はある.しかし,情動による反応は,心拍数などの自律神経を介するものより呼吸の反応のほうが早いと考えられていることから,今回,すくみ足と呼吸の関連を示したことは,臨床ですくみ足と情動の関連を把握するうえで意義がある.今後は,この呼吸の変化の検出を,すくみ足の予防,対処にどのように活かしていくかの検討が必要である.上記のように,すくみ足から脱却する前に深呼気は,高肺気量位で固定した呼吸を,意識的にコントロールすることで改善させるための代償的な方策であり,結果として,情動負荷をリセットさせるとするならば,この効果を検証していく必要がある. また,すくみ足に情動が関与している機序として,情動からの刺激入力を処理するために注意資源を使用する必要性が関連していると考えられている.更に,すくみ足と関連の深いバランス障害である予測的姿勢制御や動的なバランスコントロールを詳細に調べ,これに情動がどのように影響しているかを検証する.これには,すくみ足の定量化を,すくみ指数,ストライド長,ストライド時間の変動係数で,重心の左右動揺の大きさ,両脚支持時間で行えるようになったことが大きく貢献する.今後,これらを含めて考察した結果を論文化していく予定である.論文は,英語で論文化し,年度内発刊の雑誌への掲載を目指し準備を進めていく.さらに,大脳皮質基底核変性症などの他疾患においても同様の影響があるかも調査しており,これについては,今年度の学会で発表予定である.
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Causes of Carryover |
研究成果の公表の機会であったWPCの学会会場が近隣であったため,交通費を要しなかった.そのため,当該年度では,書籍購入費,公表のためのポスター作製費が主な支出となっている. 今年度は,日本パーキンソン病・運動障害コングレス(福岡)で発表予定であり,そのためのポスター作製費,学会参加費,交通費,宿泊費を見込んでいる.また,英語論文化に向けた英文校正サービスならびに掲載料を計上する予定である.
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Research Products
(3 results)