2018 Fiscal Year Research-status Report
パースのプラグマティズムに基づく「心の哲学」再構築
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18K12181
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
加藤 隆文 名古屋大学, 情報学研究科, 学振特別研究員(PD) (60799980)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | プラグマティズム / パース / 自然主義 / 実在論(実念論) / 推論主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の研究実績は次の通りである。 4月に、応用哲学会にて「プラグマティズムと実在:パースの実在論と実践的実在論をめぐって」という題の口頭発表を行なった。この発表では、態度の実在性をめぐる現代の議論に注目することで、パースのプラグマティシズムの現代的意義を展望した。その後、この発表に基づく論文を執筆しており、現在、応用哲学会の機関誌に投稿中である。本稿は採択が決まっており、2019年度前半に公刊予定。 6月には、アメリカ哲学フォーラムの企画パネルにて、「知覚、推論、イコン」という題の口頭発表を行なった。この発表は、パースの「存在グラフ」においてイコン性なるものがどういった意義を持つのかを明らかにする共同研究の一環である。発表内では、知覚判断が下される過程には二つの段階においてアブダクションという推論過程の要素が認められるということを主張するパース研究者の論説を検討し、それを踏まえて、イコンとアブダクションの関連を明らかにした。 10月には、美学会全国大会にて、「分析プラグマティズム美学事始め:まずは「経験」から」という題の口頭発表を行なった。この発表では、現代のネオ・プラグマティズムの泰斗ロバート・ブランダムが提唱する「分析プラグマティズム」の考え方を美学に応用することを試みた。その後、この発表に基づく論文を執筆し、『美学』に投稿中である。次号『美学』(2019年6月発行)に掲載されることが決定している。 さらに3月に、〈科研費助成事業「新学術領域研究」トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築(顔・身体学)顔と身体表現の比較現象学〉の一環で開催された『インゴルドと「あいだ」のシンポジウム』にて、「芸術とともにある人類学とエージェンシー論の再考」という題の口頭発表を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、心をめぐるC・S・パースの思想を現代の心の哲学の文脈の中で語り直す研究、いわばパースの「心の哲学」を再構築する研究を進めている。そのために本年度は特に、L・R・ベイカーの提案する実践的実在論を活用し、パースのプラグマティズムに基づく命題的態度の理論が現代の自然主義をめぐる議論状況にどういった貢献を果たすのかを明らかにした。この成果は、年度序盤に応用哲学会にて口頭発表を行い、さらにその内容に基づく論文を応用哲学会機関誌に投稿した。本稿は採択され、2019年度前半に公刊予定である。投稿プロセスにおいて非常に有意義な意見を得ることができ、本研究に役立つ新しい観点を見つけ出すことができた。たとえば、現代の自然主義をめぐるプラグマティストの議論状況に対してパースのスコラ的実在論が示しうる特色を明確化する研究のきっかけが、本稿執筆作業を通して得られた。この観点は、2019年度に継続するプラグマティズムの翻訳プロジェクトにおいても重要な意義を持つ。 前年度から続けているプラグマティズム関連書籍の翻訳も順調に進んだ。まず、かねてより共訳にて進めていた、クリストファー・フックウェイのパース研究書の邦訳出版が実現した。『プラグマティズムの格率』という書名で春秋社より、2018年11月に刊行された。また、気鋭のプラグマティズム研究者シェリル・ミサックの手によるプラグマティズム史の概説書The American Pragmatists (2013)の翻訳を、単訳にて進めている。こちらは目下、初校ゲラの校正まで作業が進んでおり、勁草書房より2019年8月刊行予定である。さらに、ネオ・プラグマティズムの泰斗ロバート・ブランダムのプラグマティズム論を集めたPerspectives on Pragmatism (2011)の翻訳を共訳にて進めており、2019年秋頃に刊行予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、命題的態度をめぐるパース独自の実在論を現代にどのように受肉させられるかという問題を検討してきた。パースは「スコラ的実在論」という説を主張し、自然界で実際に作用している種々の一般法則は実在のものと見なしている。この考えは現代の標準的な実在論ないし自然主義とは隔たりがある。しかしこの主張は規範学というパース思想独自の考えと密接な関連があり、これを踏まえれば、パースのプラグマティズム思想は現代の心の哲学に対しても、さらには現代のプラグマティズム研究に対しても、独自の貢献を果たせると本研究では明らかにした。こうした研究の過程で、ヒュー・プライスやマイケル・ウィリアムズ、ロバート・ブランダムなどの現代のプラグマティストたちが熱心に議論を交わしている主体自然主義(subject naturalism)とパースのスコラ的実在論の関係についてさらなる探究を深める必要を認識した。2019年度は、こうした観点から、ネオ・プラグマティズムとパースのプラグマティズムとを交差させる研究を進めてゆく。共訳で進めているブランダムの邦訳書の刊行などが、具体的な研究成果として期待される。 また、本研究独自の貢献として、パース記号論において最も解明の進んでいない、「存在グラフ」を用いた論理学体系においてアブダクションの働きを解明する研究も進めてきた。これに関しては、アメリカ哲学フォーラムでの企画パネルでの発表を通して一定の成果を示すことができたと考える。本研究で進行中のプラグマティズム関連の翻訳プロジェクトで取り上げる各種文献でも、「存在グラフ」を用いた推論は現代において再評価されるべき着想を含むものとして注目されている。今年度はこの翻訳プロジェクトを具体化してゆくことにより、「存在グラフ」の本邦への紹介を促進する。
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Research Products
(7 results)