2021 Fiscal Year Research-status Report
想像力と無限――フランス現代思想におけるカント哲学の現象学的再構築
Project/Area Number |
18K12187
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
長坂 真澄 早稲田大学, 国際学術院, 准教授 (40792403)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 形而上学 / 形而上学的経験論 / 思考以前の存在 / 汎通的規定 / 分有 / 神の存在証明 / 不動の動者 / 現象学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、カントの「想像力」概念に着目し、①フランス現象学がこの概念をいかに継承したか、②またこの継承を通し、いかにしてフランス現象学は、「無限」を独断的形而上学に陥ることなく語ることができるのかを解明しようとするものである。独断的形而上学とは、ここで、存在神学的な形而上学、すなわち、無限(神)を認識の対象であると僭称する哲学を指す。 この目的のため、本研究は、フランス現象学におけるカントの継承の研究から着手したが、研究初年度(2018年度)から三年目(2020年度)にかけて、カントによる存在神学批判を継承しつつ神を語る、後期シェリングの「形而上学的経験論」のフランスにおける受容が、問題究明の糸口として浮かび上がってきた。本研究の四年目である2021年度の研究の主な成果としては、以下の二点が挙げられる。 第一に、アリストテレス『形而上学』における神の存在証明と、シェリング『啓示の哲学』におけるアリストテレス読解を突き合わせ、シェリングの形而上学的経験論の特徴を明確にした。その結果、シェリングは、アリストテレスによるプラトン「分有」概念の批判と、カントによる存在神学批判(汎通的規定の原理に依拠する神の存在証明の反駁)との間に、並行関係を見出していることがあらわとなった。さらに、シェリングは、アリストテレス、カントの議論を踏まえ、実在と本質の区別を保持する形で、存在神学的でない形而上学を実現していることが判明した。 第二に、現代のフランス現象学に決定的な影響を与えるレヴィナスにおける無限をめぐる議論を、上の背景から再検討した。レヴィナスにおいては、可傷性においてこうむられるものと神との概念規定的な等置が拒絶されているという形で、主体の必然的要件としての実在と至高の事象性を持つ本質との区別が再現されていること、そこに存在神学の回避が明瞭に見てとられることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度(2020年度)までの研究では、なぜシェリングが『啓示の哲学』においてアリストテレスのプラトン批判を高く評価しながらも、アリストテレスの神概念を引き継ぐことを拒否するのか、その理由が不明瞭であった。本年度の研究において、アリストテレスの論拠を詳細にわたってシェリングの読解と突き合わせることにより、シェリングがアリストテレスの神(不動の動者)をあくまで目的因とし、自らの模索する神とは異なるものと理解する根拠が明確となった。かくして、アリストテレスにおける不動の動者、あらゆる可能態に先立つ現実態としての純粋形相が、シェリングの「思考以前の存在」に改鋳される背景が明らかとなった。 このシェリングの航跡のもとに、思考以前の未規定的なもの、すなわち記憶不可能な過去における他なるもののこうむりを語るレヴィナスの哲学を位置づけることにより、浮かび上がってきたのは、アリストテレスからカントを経て現象学へといたる一本の糸である。これまでも、現代の現象学者、哲学史家(クルティーヌ、テンゲリ)において、アリストテレス哲学と現象学は、ともに存在神学的ではない形而上学として論じられてきたが、その議論は広大な射程を有しているために、本研究では検証することができていなかった。しかしながら、シェリングを通し、アリストテレスの〈そのウーシアがエネルゲイアであるような原理〉というモチーフが、哲学史の変遷を潜り抜け、あらゆる形相に先行する原事実という現象学のモチーフへとつながっていることが見えてきた。 以上により、本研究の四年目の研究計画を達成することができた。 なお、前年度に引き続き、世界的な感染症(COVID-19)拡大の影響を受け、研究発表のため参加を予定していた複数の国際学会が延期または再延期となった。とはいえ、オンライン開催となった国内外の学会において、研究成果の一部を発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、フランス現代思想、とりわけフランス現象学において、いかに独断的な形而上学すなわち存在神学に陥ることなく無限が語られているのかを明らかにするため、当初、カント『判断力批判』の崇高判断論のフランスにおける受容を手がかりとしていた。しかしながら、研究の過程において、存在神学に陥らずして無限を語る仕方は複数あり、そのいずれもがフランス現象学と歴史的な関わりを持っていることが明らかになってきた。カントによる存在神学批判を受け継ぎつつ神を語る後期シェリングの形而上学的経験論や、さらにシェリングが参照する、あらゆる可能態に先行する現実態であるような純粋形相を語るアリストテレスにおいて、このような、存在神学とは異なる形而上学の形が確認できた。 このような哲学史的な系譜の研究は、同じ系譜を現象学とはまったく異なる観点から引き継ぐ現代の形而上学との対話を可能にする。たとえば、神の存在論的証明を有効とするへーゲルの議論を汲み取るD・ヘンリッヒの議論や、シェリングのポテンツ論を彼のプラトン読解から解明するM・ガブリエルの研究が挙げられる。本研究は2021年度を最終年度と計画していたが、世界的な感染症(COVID-19)の影響で、研究発表のため参加を予定していた複数の国際学会が延期または再延期となり、研究計画を1年延長することとなった。2022年度は、多くの国際学会が現地再開されると期待されることから、現象学とはまったく異なる視点からこの伝統的問題に取り組む研究者との交流も含め、現代の他の思想潮流との対話に注力したい。そのことによって、現象学を、より広い哲学の文脈へと開かれた方法論として提示したい。 また、学会で発表した成果は論文にまとめ、刊行に向け準備する予定である。
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Causes of Carryover |
昨年に引き続き、世界的な感染症(COVID-19)拡大の影響により、参加予定であった国際学会が延期あるいはオンライン開催となり、旅費として計上していた予算が未使用となった。次年度は国際学会の現地開催が予定されているため、未使用分の予算はその旅費等に用いたい。
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