2021 Fiscal Year Research-status Report
Developing curriculum of philosophy-based / ethics-based moral education in Japanese junior high school
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18K12189
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Research Institution | Kaichi International University |
Principal Investigator |
土屋 陽介 開智国際大学, 教育学部, 准教授 (40806494)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 子どもの哲学 / 哲学対話 / 道徳教育 / 考え、議論する道徳 / 中学校 / 教材開発 / 哲学 / 倫理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終目的は「哲学・倫理学を取り入れた中学校「道徳科」カリキュラムを書籍ないし研究成果報告書の形で刊行すること」である。今年度は、この目的に直接対応する学校教員向け一般書籍『中学道徳ラクイチ授業プラン』を、教育系出版社である学事出版から刊行した。 同書は、哲学対話とアクティブラーニングの教育手法をふんだんに活用した中学校道徳科の教材集であり、研究代表者に現役の中学校・高等学校の教員8名を加えたプロジェクトチームで作成した。「ねらい」「学習指導過程」「指導上の留意点」「ワークシート」から構成される一時間の授業プランを50種類収録しており、中学校学習指導要領で定められている道徳科の学習内容(22個の内容項目)の全てに対応可能である。そのうちの12種類は、各教科書会社が作成した検定教科書を使用することを想定した授業プランであり、学期末・学年末の評価に関するプランも6種類収録している。同書の刊行によって、本研究の最も核となる目標は達成されたと考えている。 これに加えて、日本道徳教育学会編『新道徳教育全集 第2巻 諸外国の道徳教育の動向と展望』の第24章に「子どもの哲学(P4C)」を寄稿し、哲学対話教育を道徳教育の枠組みの中で展開させる可能性を示した。この内容を発展させて、日本倫理学会第72回大会において「哲学対話はなぜ道徳教育の役に立つのか?」という研究発表(主題別討議主題別討議「倫理的思考と道徳教育」の提題)を行った。一方で、『倫理学年報』第71集には「知的な安全性について:哲学対話を道徳科の授業の中に取り入れることの可能性と危険性」を寄稿し、哲学対話教育の理念に関する十分な理解を欠いたまま実践を行うことが様々な弊害や危険性を教室の中に招き寄せてしまう可能性を指摘し、哲学・倫理学を道徳教育の中に安易かつ性急に導入しようとする動きに対して問題提起も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」欄に記載したとおり、今年度は、哲学対話とアクティブラーニングの教育手法を活用した特色のある中学校「道徳科」の教材集を教育系出版社から刊行することができた。本研究の最も核となる目標は、同書の刊行によって達成することができたと考えている。この点で、今年度の本研究の進捗状況は順調であると判断できる。 一方で、研究計画調書上で予定していた「国内外で先駆的に取り組まれている哲学対話を取り入れた道徳教育実践を対象としたフィールドワーク調査」については、昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響を受けて、まったく行うことができなかった。刊行した教材集をさらに優れたものに改良していく上で、国内外における最新の実践事例を収集することは必要不可欠である。この点において、今年度の本研究の進捗状況には大きな遅延があると判断した。 また今年度は、当該の教材集を実際に使用した学校現場を調査してフィードバックを受けることもできなかった。教材集の刊行は4月であったが、学校での使用を一通り終えた時点で年度末を迎えてしまったことが要因であった。この点においても、今年度の本研究の進捗状況は必ずしも順調であったとは言えない。 以上の三点を総合的に考慮して、2021年度における本研究の進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の当初の研究期間(補助事業期間)は、2018~2021年度の4年間であった。ここまで記載してきたとおり、本研究の中核的研究成果物となる教材集は4年間の研究期間内に予定通り完成させ、学校教員向けの出版物として広く流通させることに成功した。一方で、(1)哲学対話を取り入れた国内外の先進的な道徳教育実践事例の収集と、(2)完成させた教材集の学校現場からのフィードバックの収集・分析に関しては、十分な成果を得ることができなかった。このため、研究期間を2022年度まで延長した。 最終年度にあたる今年度は、以上の(1)と(2)を中心に研究を進める。(1)に関しては、2022年8月8~11日に立教大学(東京都豊島区)で開催される哲学対話教育に関する国際学会ICPIC第20回大会に参加して、国内外で実践されている哲学対話を用いた道徳教育の最新の事例を収集する。同大会は対面・オンラインのハイブリッド形式で開催予定であり、また開催地が日本国内であるため、新型コロナウイルス感染症の動向にかかわらず研究を進めることができると見込んでいる(なお、状況が許せば海外の実践者や学校を訪問し、さらなる実践事例の収集を行うことも考えている)。また同大会では、研究代表者がこれまで実践・監修してきた道徳教育の枠組みにおける哲学対話教育の実践に関する研究発表を行い、哲学・倫理学を取り入れた道徳科授業の一事例として広く国内外に情報発信することも計画している。 (2)に関しては、本研究が作成した教材集を2021年度の中学校道徳科の授業において実際に使用した複数の教員にインタビューを行う。実際に使用した上での使い勝手のよさや生徒の反応等を踏まえた上で、同教材集の利点や課題点等を詳しく聞き取ることによって、教材集をさらに優れたものに改良するための具体的なアイデアを収集する。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」に記載したとおり、新型コロナウイルスの国内外での感染拡大の影響を受けて、当初より計画していた国内外の学校や教育機関を対象にしたフィールドワーク調査をまったく行うことができなかった。このことが、次年度使用額が生じた主たる理由である。 今後の状況次第ではあるが、次年度は遅れているフィールドワーク調査を可能な限り精力的に進める予定であるため、当初の研究計画通りに研究費を支出できる予定である。詳細は「今後の研究の推進方策」欄に記載したとおりであるが、特に国内に関しては、可能な限り多くの研究出張を行って、哲学対話を取り入れた先進的な道徳教育実践事例を収集する予定である。また、それと同時に、本研究が作成・刊行した中学校道徳科の教材集を実際に使用した全国各地の複数の教員にインタビューを行い、教材集をさらに優れたものに改良するための学校現場からのフィードバックを収集する予定である。
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