2018 Fiscal Year Research-status Report
カントの批判哲学とバウムガルテンの「学問基礎論としての形而上学」との対決
Project/Area Number |
18K12190
|
Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
増山 浩人 電気通信大学, 情報理工学域, 准教授 (30733331)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | カント / バウムガルテン / ライプニッツ / ヴォルフ学派 / 形而上学 / 世界論 / 認識論 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の成果は以下の通りである。 1)バウムガルテン、マイアーの著作の分析を通じて、「人間的認識における第一諸原理に関する学」というバウムガルテンの形而上学定義がデカルト的であることを裏付けた。つまり、彼にとって、形而上学とは学問的認識の基礎概念・基礎原則を定義する学だったのである。その上で、カントの形而上学講義の集中的な読解を行った。このことによって、カントはバウムガルテンの形而上学定義の問題点を回避するために、伝統的な「超自然学」としての形而上学の復権を図ったという本研究の作業仮説が正しいことを裏付づけることができた。以上の成果に関しては、日本哲学会で研究発表を行った。 2)バウムガルテンの世界論に対するカントの批判を理解するための新たな鍵を突き止めた。それは、カントがバウムガルテンの世界論を「個別的に確立された調和」という誤った前提に基づくことを理由に批判しつつ、「一般的に確立された調和」に基づく新たな世界論を確立しようとしたという事実である。この二つの調和概念の重要性を示した論文は日本ライプニッツ協会の機関誌『ライプニッツ研究』に掲載され、同協会の研究奨励賞を受賞した。 3)依頼を受け、W.エアトル教授(慶應義塾大学)の論文「表象にほかならないこと」を和訳し、岩波書店の『思想』カント特集号に寄稿した。本研究はカント哲学と同時代のドイツ学校哲学との比較検討という方法論を用いている。エアトル教授の論文は、この方法論がカント哲学の正確な理解のために不可欠であることを本研究とは別の角度から立証している。そのため、この翻訳の公表は本研究の方法論の重要性を周知するよい機会となった。 4) 依頼を受け、バウムガルテンとカントの神の存在証明に関する招待講演、拙著『カントの世界論』の3つの書評に対する応答文の寄稿、バウムガルテンとカントに関する事典項目の執筆を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
バウムガルテンの形而上学定義に対するカントの批判に関する本研究の作業仮説を検証し、その成果を日本哲学会で発表することができた(上記「研究実績の概要」の1)に対応)。さらに、形而上学の四学科のうち、世界論に関するカントとバウムガルテンとの間の新たな争点を突き止めることができた(上記「研究実績の概要」の2)に対応)。しかし、日本哲学会の発表原稿を論文にまとめるまでには至らなかった。さらに、予定していた海外渡航と英語論文の投稿を行うこともできなかった。この点で、全体的に研究の進行が遅れていることは否定できない。 研究の遅延の理由は二つある。一つ目は、今年度の後半期に電気通信大学へ着任することが急遽決定したため、着任準備、研究室のセットアップ等にかなりの時間を費やす必要があったことである。そのため、特に今年度の後半期は当初予定していたより大幅に少ない時間しか研究に従事できなかった。二つ目は、当初予定していなかった翻訳、事典項目の執筆、招待講演等の依頼(上記「研究実績の概要」3)と4)に対応)をこなすために、多くの時間を必要としたことである。しかし、これらの依頼をこなす中で、2019年度以降に取り組む予定だった文献の一部を読解することができた。したがって、これらの依頼を受けることによって、結果的には2019年度以降の作業を一部前倒しできたとも言える。 以上の理由から全体として研究の進捗状況は「やや遅れている」と判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度は、主にカントのカテゴリー論がバウムガルテンの形而上学が抱えている問題点をどのように解決しているのかを検討する。さらに、前述の日本哲学会での発表原稿を大幅に改訂増補し、2020年度までに2本の論文として公表するための準備を行う。なお、今年1月に常勤職に着任したことにより、教育活動や学務に慣れるまでは、研究時間が一時的に減少することが見込まれる。研究時間の減少に関しては、海外渡航の回数・日数を減らすことや補論的なテーマに関する研究を縮小することで対処する。
|
Causes of Carryover |
余剰金が生じたのは、電気通信大学への着任準備に伴う研究時間の減少、および海外渡航の中止による。余剰金は主に今後の海外渡航や文献の購入などに使用する。
|