2019 Fiscal Year Research-status Report
カントの批判哲学とバウムガルテンの「学問基礎論としての形而上学」との対決
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18K12190
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
増山 浩人 電気通信大学, 情報理工学域, 准教授 (30733331)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カント / バウムガルテン / 形而上学 / カテゴリー / 認識論 / 世界論 / 存在論 / ヴォルフ学派 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度はバウムガルテンの存在論・世界論とカントのカテゴリー論・理念論の比較研究に着手し、その成果を第30回日本ヘーゲル学会シンポジウム「カテゴリー論としてのヘーゲル論理学―その歴史的位置づけと射程について―」にて発表した。具体的な成果は以下の通りである。 1)バウムガルテン『形而上学』「世界論」のテキスト分析を行い、バウムガルテンが二つの異なる場面でカテゴリーを使用して世界を直接認識しようとしていることを裏付けた。つまり、a.世界を「他の部分ではない全体」として定義する場面、b.定義された世界概念を分析していく場面。このことによって、カントが経験の領域外の対象へのカテゴリーの不当な使用と呼んだ事態の具体相が明らかになった。しかし、a.はカントのバウムガルテン解釈の枠内にはおさまらない可能性もあり、さらなる研究が必要である。 2)カントがカテゴリーによる直接認識とは異なる仕方で、世界に接近しようとしたことを裏付けた。具体的には、『純粋理性批判』「分析論」の再検討を通して、カントの相互性のカテゴリーには類比に基づいて世界を間接的に認識する役割があることを明らかにした。つまり、相互性のカテゴリーによって、我々は目の前にある対象が世界の一部分であることを認識できるのである。カントによれば、この類比に基づく認識こそが、複数の対象の同時存在を経験するための条件である。その上で、こうした類比に基づく世界の認識が「諸部分:全体=複数の対象:X(世界)」という関係式に集約できることを明らかにした。 3)『純粋理性批判』「弁証論」におけるa. 世界全体の直接認識は系列の遡及に基づいてのみ行われうること、b. この認識は例外なく失敗に終わること、という二つの主張を再検討した。このことによって、カントの理念論がどのような仕方でバウムガルテンの存在論・世界論に対する批判になっているかを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初2019年度は「実績の概要」に記した作業に加え、2018年度に行った研究発表の論文化を進める予定であった。しかし、後者の作業は時間不足のため全く行うことができなかった。 その理由は、2019年1月に専任教員として着任した電気通信大学で初開講の講義・セミナーの準備、その他学務にかなりの時間を割かざるを得なかったことである。それに伴う一時的な研究時間の減少は本研究課題を申請した時には予想できないことであった。とはいえ、そのような状況の中でも、「実績の概要」で記した研究活動を行い、その成果を日本ヘーゲル学会のシンポジウムで発表することができた。そのため、「現在までの進捗状況」は「やや遅れている」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究事業は2020年度が最終年度であった。しかし、2019年度の遅れを取り戻そうとした矢先に、新型コロナウィルスの感染拡大に見舞われた。それに伴い、2020年度前期はこれまで未経験のオンライン授業の準備に忙殺され、すでに研究時間が大幅に減少している。それに加え、現在国内出張・海外渡航の双方が制限されている。こうした不幸な事態がいつまで続くかは、現時点ではまだ未知数である。とりわけ海外渡航に関しては、来年度以降も制限が続く可能性がある。 以上の状況を踏まえ、研究の遅れを取り戻すために、まず2020年度末に補助事業期間延長の申請を行い、研究期間を2021年度まで延長する。その上で、海外渡航を最小限にできるように研究計画の変更を行う。この変更は主に研究成果の作成過程や発表方法の変更である。
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Causes of Carryover |
余剰金が生じたのは、電気通信大学で今年度より開講の講義・セミナーの準備やその他学務による研究時間の減少・海外渡航の中止による。余剰金は主に文献代や今後の国内出張に使用するが、もし可能であれば海外渡航にも使用する予定である。ただし、海外渡航の可否については、新型コロナウィルスの感染拡大状況やそれに伴う研究の進捗状況の変化に応じて判断する。
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