2020 Fiscal Year Research-status Report
「危害」概念をベースにした「常識的」動物倫理の基礎構築
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18K12192
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
吉沢 文武 秋田大学, 高等教育グローバルセンター, 講師 (20769715)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 動物倫理 / 危害 / ベジタリアニズム / 菜食主義 / 生殖の倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の核となる問いは、「危害(harm)」概念を理論的に洗練させることで、広く受けいれられる「常識的」な動物倫理を危害概念で基礎づけることは可能か、である。「危害」概念の理論的洗練化は近年進んできたが、「動物倫理」においては、素朴な理解のまま用いられ、いまだ中心的な役割が与えられていないように見える。本研究は、危害概念に基づいて動物利用に対する賛成派・反対派双方による建設的議論を可能にする「常識的」動物倫理の基礎の確立を目指す。そのために、動物倫理において適切な「危害」概念の理解の解明を進めることを目的と定め、研究課題を(1)動物倫理に対する標準的「危害」理論の適用可能性の検討、(2)動物倫理において固有な「危害」理解とその背景の特定、(3)「危害」概念をベースにした「常識的」動物倫理の基礎構築、に分けている。 当該年度は、当初の予定として、最終年度の研究として、これまでの研究の継続として(1)と(2)を発展させながら、(3)にまとめ上げるという計画のもと進めてきた。継続的な研究としては、(A)肉食とベジタリアニズムをめぐる問題の検討および、(B)畜産などにおいて動物を「生み出す」という人間の営為をめぐる問題の検討については、成果としてまとめることができた。しかしながら、(3)の理論的研究は、新型コロナウイルス感染拡大の影響も強く、予定通りに研究が進まなかった。そのため、研究計画を延長し、(3)については、次年度に進めることとした。次年度においては、とくに、2年目の研究のなかで「誕生」をめぐって「害」の概念がどのように理解されるべきなのかという理論的検討の必要性が明らかになったため、中心的課題として設定する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大のため、学会・研究会の実施が制限されたこと、それらの発表をもとに執筆する予定であった原稿が進められなかったこと、通常とは異なる業務が増加したことによって、研究時間の確保に著しい影響を受けたことなどにより、研究期間を延長することになった。そのため、年度内に進めたかった予定に対して、遅れていると判断せざるを得ない。 他方で、研究成果としては、(A)の研究として、「菜食主義」について項目を執筆した事典が2021年1月に刊行された。そこでは、危害概念が、倫理的菜食主義の動機として役割をもつことを指摘することができた。(B)の成果としては、動物を「生み出す」ことと、それに伴う「危害」の評価について論じた査読論文を2020年6月に刊行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定としては、(1)動物倫理に対する標準的危害理論の適用可能性の検討、(2)動物倫理において固有な危害理解とその背景の特定を中心に行ない、それらを踏まえて、当該年度は、(3)危害概念をベースにした「常識的」動物倫理の基礎構築へと進む計画であった。当該年度の研究としては、動物を生み出すという営為に注目した前年度の研究を発展させ、まとめることはできた。そこでは、(3)において明確化する予定であった、「常識的」倫理という本研究の核になるアイデアを明示的に位置づけることができた。そのさい、動物を繁殖させる営為のなかでも、食用に動物を殺すことをいかに評価するかについての検討に力を入れた。当初予定していた本年度の研究は、延長した次年度においては、とくに、生殖をめぐる倫理に関する理論的研究の必要性が明らかになったことを踏まえて、動物に限定されない「生み出すこと」をめぐる理論的研究を行ないながら、動物利用という背景にある理解を踏まえた「危害」概念の明確化を同時に進める。最終的には、動物倫理の文脈における適切な「危害」概念をベースに、常識的な動物倫理の基礎構築を目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、次年度に研究計画を延長したため、実施できなかった研究に使用予定であった予算を次年度の計画において利用する。
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Research Products
(2 results)