2019 Fiscal Year Research-status Report
近代ドイツ哲学における心理主義の系譜―カントとテーテンスを中心として―
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18K12193
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
辻 麻衣子 上智大学, 文学研究科, 研究員 (40780094)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カント / テーテンス / 構想力 / 心理主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度に実施した研究の主な成果は、以下の通りである。 2つの版が存在する『純粋理性批判』超越論的演繹論を、多くの先行研究とは異なり、連続的に解釈することができた。『純粋理性批判』におけるカントは、超越論哲学という壮大なプログラムによってライプニッツ‐ヴォルフ学派による伝統的な形而上学の枠組みと完全に袂を分かったというよりは、むしろ両者の接点を残しており、その要となるのが構想力Einbildungskraft概念である。この概念には、上述のライプニッツ‐ヴォルフ学派のような、いわゆる「大陸合理論」とは相入れないバックグラウンドがあった。それがヒュームに始まる経験論の系譜である。カントはテーテンスの著作『人間本性とその展開についての哲学的試論』を通じて、このような背景を知るに至り、それが演繹論にも反映されている。ところが、従来の経験心理学とは次元の異なる超越論的な根拠づけの一部として導入したはずの生産的構想力を、第1版では再生的構想力と混同されかねないような仕方で論じたために、あらぬ誤解や不理解を招いてしまった。そこで第2版では再生的構想力に関する説明を極力削ることになり、同時に構想力の働きそのものが叙述の混乱の元凶であることに気づいたカントは、第2版を統覚の統一というア・プリオリな認識の可能性の説明にもっとも肝心な部分の説明から始め、構想力についてはテクスト終盤でようやく登場させるように説明順序を変更した。両演繹論はこのようにテクストの表面上においては叙述仕方が異なっているにもかかわらず、第1版の主観的演繹で論述されるべき認識諸能力の体系論は第2版においても保存されていることを後者の精読・解釈を通じて明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第2版演繹論のテクスト読解・解釈、およびテーテンスのカントに対する影響関係について一定の進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
一定の進展があったものの、研究成果には至らなかったため、今後はその発表を目指して更に研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
予定していた研究大会のための出張が行えなかったため。また2020年度は、新型コロナウイルスの影響で国内外の出張遂行が困難になると考えられるため、書籍などの物品費に充当する予定である。
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Research Products
(3 results)