2019 Fiscal Year Research-status Report
A Philosophy of Language Approach to Understanding Hate Speech
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18K12194
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
和泉 悠 南山大学, 人文学部, 准教授 (10769649)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 言語哲学 / 倫理学 / 意味論 / 語用論 / ヘイト・スピーチ / 排外主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ヘイト・スピーチを中心とする、市民社会において不信と断絶を生む言語活動を、言語哲学とその関連分野の研究手法を用いて分析し、包括的な理解を与えることである。2019年度は、本研究途中経過の内容を、国内外4つの学会・研究会において発表し、その一部を(および過年度発表を行った内容も含め)雑誌論文として、そして論文集の一編として刊行した。 単語レベルの理論言語学研究の成果を踏まえ、差別的単語の意味とその使用を検討した。その結果得られた知見の1つは次のようなものである。単語の「意味」には複合的な側面があり、話者の一人ひとりが明示的に把握している内容はその一部分でしかない。それは日本語待遇表現(敬語や、「さん」といった敬称など)を適切に使用する話者が、その使用のルールを明示的に把握していないのと同じことである。敬語が特定の社会的関係性が成立した条件でのみ使用可能であるように、差別的単語も特定の社会的・外在的状態の成立をその使用の条件として持つ。話者がどのような心的な態度を持っていようが、敬語使用が社会的関係性を含意してしまうように、差別的単語の使用は、たとえ話者に「悪意がない」としても(本当にそれが事実だったとして)、差別的社会構造を含意し、その維持に貢献してしまう可能性がある。民間に流布している差別的単語の「意味」と、理論的に解明される内容との乖離は非常に大きい。差別的単語使用の悪影響などは、前者ではなく、後者にもとづいて評価されなくてはならない。 さらに、今年度は近年哲学分野で注目を集めている概念工学の観点から、「ヘイトスピーチ」概念の欠点を指摘し、可能な改善方針を検討した。1つの可能性は、誤解の多い「ヘイト」という用語使用を避け、より非心理的側面や社会的害悪に焦点を当てた用語を採用することである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2019年度の研究成果として、国内学会・研究会で2回、国際学会・研究会で2回研究発表を行った。また、雑誌論文が2本、論文集へ収録されたものが1本出版された。さらには、2020年度には、共著を含む3本の論文の執筆が完了し、出版がすでに決定されている。今年度出版された論文数はおおよそ計画通りであるが、すでに来年度の論文出版準備が整っているため、これは当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、国際学会等での研究発表の機会に制約が存在する可能性が大きい。まずは、前年度までに行った研究発表の成果をまとめることに注力する。 また、これまでと異なるアプローチでヘイト・スピーチ現象に向かうことにする。2019年度に出版した論文の中で、今後の課題として、日常会話などの理論的分析と、SNS上など、インターネットにおける言語使用との差異を考慮に入れなければならない、という点を指摘した。そこで、データサイエンティストや自然言語処理の専門家と協力し、量的な側面を考慮に入れつつ、データ収集と分析を行う。1つ目の課題として、ツイッターなどSNSを利用した、日本語ヘイト・スピーチデータベースの構築を目指す。現在英語だけでなく複数の自然言語においてこうしたデータベースの構築が進んでいるが、日本語の類似データベースは存在せず、われわれの研究はこの萌芽的分野への大きな貢献を果たすことが見込まれる。今後さらには、計量的そして質的に収集されたデータを分析することにより、究極的には排外主義的な言説を抑制する方策を探究していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は二つある。一つは、資料収集を主に自ら行ったため、その補助への謝金がそれほど使用されなかったためである。また、2019年度末はすでに covid-19 の影響が出ており、複数回出張・研究発表出席等がキャンセルとなった。そのため、出張費にも残額が発生したためである。 2020年度においては、より資料収集の視野を広げ、研究補助員を増員することを計画している。一方で、出張をともなう研究発表に関しては計画を立てるのが難しい状況にある。
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Research Products
(7 results)