2020 Fiscal Year Research-status Report
The Concept of "Filial Piety" in Confucianism and the Reconstruction of End-of-Life Ethics: On the Comparison of Japan and Taiwan
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18K12195
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
鍾 宜錚 大谷大学, 文学部, 研究員 (10793672)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 終末期 / 延命治療 / ACP / 尊厳 / 台湾 / 親孝行 / 意思決定 / 善終 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、終末期医療における「孝」(日本の場合は「親孝行」)の表現に注目し、延命治療をめぐる意思決定と家族の葛藤を分析することで、患者の「最善 な利益」や「自律の尊重」など従来の倫理原則とは異なる、「孝」の観点から捉える終末期医療のあり方と家族との関係性に基づいた倫理原則の提示を目的とす る。日本と台湾を中心に、それぞれの社会における「孝」の概念と医療決定に際する「孝」の役割を考察し、「孝」の文化がいかに終末期医療方針に影響を与え てきたのかを検討する。 2020年度では、2019年1月に施行開始した台湾の「患者自主権利法」の現状と問題を考察し、日本における終末期医療の法制化の状況を踏まえて、両国の文化的・社会的背景を比較分析した。また、終末期の意思決定を促進する上で有効的とされているアドバンス・ケア・プランニング(ACP)制度の実行について、日本との比較をしながら、終末期意思決定における家族の役割について検討した。コロナ禍の中で、延命治療のあり方と意思表示の重要性に注目が浴びている。本人の意思確認のプロセスとそれに関連する倫理的問題について、再度整理・分析する必要が生じている。また、台湾における終末期医療の法制化の中で、尊厳概念の内実も変化が見られる。2020年度では、法律の施行に伴って義務化されたACPの実施状況と、ACPを行う上で明らかになった本人と家族との関係性、そして家族中心主義から自己決定権へと変化する人間の尊厳、その一連の議論を中心に調査した。新型コロナ感染症の影響によりACPに関する病院への問い合わせが減ったものの、これまでACP実施の状況を踏まえてその問題点と改善策を法改正に反映するような動きが見られた。また、一連の法制化の議論のなかで、家族中心主義に基づいた尊厳概念が個人の自己決定権の重視へと移った傾向を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究はこれまで、終末期医療における「孝」の語りと表現、すなわち「孝」の言説について検討してきた。終末期医療をめぐる意思決定の場面において、親が子を思い、子が親を思うような感情はいかに描写されていたのかについて、小説と映画を中心に分析し、社会心理学の研究に参照しながら「孝」の意義を検討した。2019年度に続き、2020年度にも「患者自主権利法」の実施状況と関連する倫理的問題を調査するために現地調査を予定していたが、新型コロナ感染症の拡大により海外への渡航が困難になり、関連資料の入手が難しくなった。また、医療現場では感染症対策に多くの医療従事者を投入しているため、医療従事者への聞き取り調査の予定は当初より遅れる事態が生じた。2020年度は現地調査には行けなかったため、文献調査を中心に研究を行った。なお、儒教の「孝」の概念について、韓国における「親孝行」の文化とその実態についても新たに調査した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を踏まえて、今後は1)現代社会における「孝」の受容と2)法制化の際の議論に見られた「孝」の内実の変容を中心に推進していく。台湾において、「患者自主権利法」は2019年に施行されたが、著名人をはじめ、「安楽死」の合法化を求める呼びかけがあり、国民投票に向けて大規模な署名活動も行われた。患者の自己決定や死ぬ権利を求める声が高まっているなか、終末期の意思決定をめぐって本人と家族の間にどのような衝突が生じうるか、それに対してどのような解決策が必要なのかについて、「孝」の観点から分析する予定である。2020年に始まった新型コロナ感染症の流行は、終末期や「良い死」のあり方についてどのような意識変化をもたらしたのかについても、日本、台湾、韓国など東アジアを中心に比較する予定である。また、2020年度に続き、終末期ケアにおける宗教の役割について、各宗教における終末期意思決定の立場や家族の役割についても考察する予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度では、新型コロナ感染症の世界的流行により、海外への渡航が困難となり、予定していた現地調査が取りやめになったことと、国内外の主要学会の開催がオンラインに切り替えたことで旅費の支出がなくなったため、次年度使用額が生じた。2021年度では、2020年度の助成金と合わせて、国際学会への参加費と渡航費、現地調査の費用に使用する予定である。
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Research Products
(6 results)