2018 Fiscal Year Research-status Report
日本と東アジアの戒律思想の比較研究―『伝述一心戒文』から見た最澄の大乗戒観―
Project/Area Number |
18K12199
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
柴田 憲良 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 研究員 (30788807)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 東アジア仏教史 / 戒律 / 天台宗 / 伝述一心戒文 / 最澄 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、最澄の戒律思想を考究する上での最重要史料である応徳元(1084)年良祐書写による『伝述一心戒文』3帖(国指定重要文化財、比叡山国宝殿所蔵)の全文の影印を作成し、翻刻、訓読、注釈を付した注釈書の出版を目指すとともに、最澄が提唱した単受大乗戒制の背景および意義を東アジアにおける仏教史の中に正確に位置付けていくことを目的とする。 本年度は、本史料の熟覧、写真撮影ならびに奥書の翻刻を行い、その成果を論文として発表した。当該論文には、本史料の写真を所蔵者の許可を得て掲載したため、多くの研究者に公開することができた。 合わせて、最澄の思想研究として、東アジア仏教の諸相との比較の視座から研究を進めた。最澄の末法思想に見られる特徴的な理解が、北周末から隋初に活躍した「菩薩僧」や隋の文帝にすでに見られる思想と同一であり、その影響を強く受けて成立していることを、論文として発表した。また、11月9~10日に大津市叡山学院において開催された天台宗教学大会・学術大会では、「布薩における空座について」として、僧侶の戒律保持を確認する法会である「広布薩」における空座の設置について、その起源と意義を歴史的・教学的観点に基づき発表した。 国外調査では、8月28~31日に韓国(旧、新羅国)の通度寺、仏国寺、石窟庵、雁鴨池、海印寺、双ゲ寺、華厳寺の現地調査を行った。国内調査では、7月17~18日に京都・滋賀の三鈷寺・善峯寺・泉涌寺・如意寺跡・延暦寺の調査を行った。ついで2月19~20日に東京の寛永寺内根本中堂・弁天堂・清水観音堂・上野大仏・時鐘堂の調査および東京国立博物館の見学を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、応徳元(1084)年良祐書写による『伝述一心戒文』3帖(国指定重要文化財、比叡山国宝殿所蔵)の写本調査は着実に進展しており、かつ最澄の思想研究および国内調査・国外調査を実施できているため、研究はおおむね順調に進展しているといえる。 本年度の大きな成果は、『伝述一心戒文』の熟覧、写真撮影ならびに奥書の翻刻を行い、その成果を論文として発表したことである。本論文には所蔵者の許可を得て、10枚の写真を掲載した。これにより他の研究者にも広く情報を開示することができた。 国外調査では、8月28~31日に韓国(旧、新羅国)の通度寺、仏国寺、石窟庵、雁鴨池、海印寺、双ゲ寺、華厳寺の現地調査を行った。通度寺・双ゲ寺にみられる「金剛戒壇」(海印寺には「金剛戒壇」の額が掲示)は、舎利塔(石鐘浮屠)の周囲を二重の方壇が囲い、外郭には石造欄干、菩薩像、四天王像、飛天像が安置され、正面には石門が設置されている。韓国と日本における戒壇の様式の影響関係については、重要な研究課題といえる。 国内調査では、7月17~18日に京都・滋賀の三鈷寺・善峯寺・泉涌寺・如意寺跡・延暦寺の調査を行った。ついで2月19~20日に東京の寛永寺内根本中堂・弁天堂・清水観音堂・上野大仏・時鐘堂、東京国立博物館の調査・見学を行った。 最澄の思想研究として、東アジア仏教の諸相との比較の視座から研究を進めた。最澄の末法思想に見られる特徴的な理解が、北周末から隋初に活躍した「菩薩僧」や隋の文帝にすでに見られる思想と同一であり、その影響を強く受けて成立していることを、論文として発表した。また、11月9~10日に大津市叡山学院において開催された天台宗教学大会・学術大会では、「布薩における空座について」として、僧侶の戒律保持を確認する法会である「広布薩」における空座の設置について、その起源と意義を歴史的・教学的観点に基づき発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の研究の推進方策は、以下の通りである。 (ア)『伝述一心戒文』史料調査・ 資史料の読解。応徳元(1084)年良祐書写による『伝述一心戒文』については熟覧、法量の計測、写真撮影を含め、ほぼ調査を終えている。一方、叡山文庫などには同史料の写本および版本が収蔵されていることが分かり、今後は当該史料の調査を進展させていく必要がある。 (イ)研究会の開催(名古屋・比叡山)。本史料の注釈書作成に向けて、全文の訓読および注釈を付す作業を進展させていく必要がある。当面、本史料の翻刻データを作成し、訓読を進めながら、語注のための資料収集を行う。研究会を開催することで、その進展状況を報告し、多くの研究者間での情報交流、意見交換を行う。 (ウ)国内現地調査・資史料調査を実施する。比叡山国宝殿所蔵『伝述一心戒文』の実見調査、叡山文庫所蔵『伝述一心戒文』の史料調査、下野市薬師寺跡・戒壇跡・大慈寺・六所宝塔の現地調査、太宰府市戒壇院・観世音寺・竈門山寺・六所宝塔跡地・妙香庵の現地調査を実施する。国外現地調査・資史料調査を実施する。北京市馬鞍山戒臺寺の戒壇堂(遼代)・法均遺行碑他石刻史料、雍和宮(ラマ教寺院)の法輪殿西戒壇(18C初頭)、河北省正定城内隆興寺の戒壇堂(清初)、陝西省西安市終南山浄業寺(道宣『戒壇図経』執筆地)・豊徳寺・実際寺跡(鑑真受戒地)・中国江蘇省南京市南林寺の戒壇、浙江省杭州市昭慶寺の戒壇、福建省泉州市開元寺の甘露戒壇の現地調査を実施する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、当初予定していた雑誌論文2本の発行が遅れ、それに伴い抜き刷りの制作にも遅れが生じたことから、論文抜き刷りに係る料金および他の研究者への発送費を次年度支出へと持ち越すことになったためである。 次年度使用計画としては、論文抜き刷りに係る料金およびその発送費に充てる予定である。
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