2020 Fiscal Year Research-status Report
日本と東アジアの戒律思想の比較研究―『伝述一心戒文』から見た最澄の大乗戒観―
Project/Area Number |
18K12199
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
柴田 憲良 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 研究員 (30788807)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 最澄 / 伝述一心戒文 / 良祐 / 千妙寺 / 大乗戒 / 比叡山 / 延暦寺 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、最澄の戒律思想を考究する上での最重要史料である応徳元年(1084)年良祐書写による『伝述一心戒文』3帖(国指定重要文化財、比叡山国宝殿所蔵)の全文の影印を作成し、翻刻、訓読、注釈を付した注釈書の出版を目指すとともに、最澄が提唱した単受大乗戒制の思想的背景および意義を東アジアにおける仏教史の中に正確に位置付けていくことを目的とする。 本年度は、上記史料調査の一環として、10月13日に叡山学院で開催された比叡山文化研究所研究発表会および10月23日に同学院で開催された第六十二回天台宗教学大会の研究発表会にて、「『伝述一心戒文』良祐書写本の伝来について―千妙寺への伝領」と題し、良祐書写本の伝来を全四期に分類したうちの第三期、すなわち茨城県千妙寺へ伝領された経緯について、千妙寺文書の読解を通して解明した内容を発表した。一方、本写本・中巻の校訂作業を手持ちの史料の範囲でほぼ終えることができた。校訂作業については、コロナ禍の影響によりオンラインで実施した。 なお、国外調査および国内調査については、コロナ禍により実施することができなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
応徳元(1084)年良祐書写による『伝述一心戒文」3帖(国指定重要文化財、比叡山国宝殿所蔵)の写本調査は着実に進展しているが、本年度はコロナ禍の影響を受け、国内調査・国外調査を実施できていないため、研究はやや遅れている。 本史料の写本を所蔵する金沢文庫には、コロナ禍による都道府県をまたぐ移動の自粛が断続的に要請されたため、史料調査を実施することができなかった。 一方、本年度は、本写本・中巻の校訂作業を手持ちの史料の範囲でほぼ終えることができた。また、本写本の伝来の詳細について学会報告することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題の今後の研究の推進方策は、以下の通りである。 (ア)『伝述一心戒文』史料調査・資史料の読解。応徳元(1084)年良祐書写による『伝述一心戒文』については、熟覧、法量の計測、写真撮影を含め、ほぼ調査を終えている。前年度は、叡山文庫所蔵の同史料の写本および版本、計3点を入手、調査を行った。今後は、本年度にはコロナ禍の影響によりかなわなかった金沢文庫所蔵の同史料の写本を入手、校訂作業を完了させたい。 (イ)研究会の開催(名古屋・比叡山)。本史料の注釈書作成に向けて、全文の訓読および注釈を付す作業を進展させていく必要がある。史料の翻刻、訓読を進めながら、語注のための資史料収集を行う。研究会を定期的に開催し、研究課題の進展状況を報告し、多くの研究者間での情報交流、意見交換を通して、課題を推進させる。コロナ禍の為、ネットを利用した遠隔研究会の開催を検討したい。 (ウ))国内現地調査・資史料調査を実施する。下野市薬師寺跡・戒壇跡・大慈寺・六所宝塔の現地調査、太宰府市戒壇院・観世音寺・竈門山寺・六所宝塔跡地・妙香庵の現地調査を実施する。国外現地調査・資史料調査を実施する。北京市馬鞍山戒臺寺の戒壇堂(遼代)・法均遺行碑他石刻史料、雍和宮(ラマ教寺院)の法輪殿西戒壇(18C初頭)、河北省正定城内隆興寺の戒壇堂(清初)、陝西省西安市終南山浄業寺(道宣『戒壇図経』執筆地)・豊徳寺・実際寺跡(鑑真受戒地)・中国江蘇省南京市南林寺の戒壇、浙江省杭州市昭慶寺の戒壇、福建省泉州市開元寺の甘露戒壇の現地調査を実施する。ただし、出張を伴う現地調査は、コロナ禍の収束を待つ必要がある。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐために出張が制限されたため、国内調査および国外調査が全く実施できなかったこと、同理由により研究機関が休止となり資史料の収集ができなかったこと、これに伴い、史料翻刻のチェック機能としてのパート作業が実施できなかったことが理由として挙げられる。 次年度使用計画としては、コロナ禍収束が前提ではあるが、出張制限の解除、研究機関の再開を待ち、資史料の収集、史料翻刻のチェックのためのパート賃金に充てる予定である。
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