2020 Fiscal Year Research-status Report
A comprehensive study on Dharmakirti's Pramanavarttika and its commentaries.
Project/Area Number |
18K12203
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Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
石田 尚敬 愛知学院大学, 文学部, 准教授 (80712570)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 仏教論理学 / ダルマキールティ / 知識論評釈 / サンスクリット語文献学 / シャーキャブッディ / カルナカゴーミン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、インド仏教の伝統にあって認識論・論理学を大成したダルマキールティ(法称、7世紀頃)の最初期の著作、『知識論評釈』(プラマーナ・ヴァールッティカ)第1章(推理論)の本文およびその諸注釈書について、原典写本に基づく校訂・解読研究を実施し、仏教認識論・論理学研究における基本資料の整備を目的としている。 本年度は、研究計画の3年目となり、『知識論評釈』本文について、研究代表者が自らインド・グジャラート州のジャイナ教僧院書庫で撮影したカラー写本写真(パタン写本)を用い、主に言語哲学(アポーハ論)を論じた部分の原典テキストの異読調査を行った。 さらに、『知識論評釈』のテキストが大量に再利用(引用)されるダルマキールティ後期の著作『知識論決択』(プラマーナ・ヴィニシュチャヤ)についても、該当箇所の並行文の調査を行うと共に、中国蔵学研究中心(China Tibetology Research Center、北京)とオーストリア科学アカデミーとの国際プロジェクトのもと、初めてサンスクリット語原典写本が参照可能となったダルモーッタラの注釈書『知識論決択注』を校訂しつつ、解読を行った。 また、上記『知識論評釈』に対するシャーキャブッディ(7世紀)の注釈書(チベット語訳のみ全体が現存)について、カルナカゴーミンによる注釈書に見られる平行文(パラテル・テキスト)を調査し、サンスクリット語原典テキストの収集を行った。 なお、令和2年度(2020年度)は、新型コロナウィルス感染症の流行のため、国内外の学術大会のほとんどが中止(延期)もしくはオンライン開催となったが、日本印度学仏教学会第71回学術大会(2020年7月4日)および稲見正浩教授(東京学芸大学)主催のプラジュニャーカラグプタ研究会(2021年 3月30日)にはオンライン形式で参加し、研究成果報告や情報交換を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ダルマキールティ(法称)の『知識論評釈』(プラマーナ・ヴァールッティカ)第1章(推理論)の本文およびその注釈書類について、原典写本に基づく校訂・解読研究を実施し、仏教認識論・論理学研究における基本資料の整備を目的としている。 研究計画の3年目として、『知識論評釈』本文について、「言語哲学」(アポーハ論)の箇所を中心に、研究代表者が自らインド・グジャラート州のジャイナ教僧院で撮影した原典写本を用い、サンスクリット語原典テキストの異読調査を実施した。 同時に、『知識論評釈』のテキストを大量に再利用しているダルマキールティ後期の著作『知識論決択』(プラマーナ・ヴィニシュチャヤ)のサンスクリット語原典テキスト(2007年刊)についても、該当箇所の並行文の調査を実施した。 さらに、チベット語訳でのみ全体が現存する、シャーキャブッディによる『知識論評釈』への注釈書について、サンスクリット語テキストが現存するカルナカゴーミンの注釈書(『知識論評釈詳注』)に見られる平行文を収集、整理した。さらにはシャーキャブッディの注釈書を多数引用しているジャイナ教徒の論理学者ハリバドラ・スーリの著作を参照し、新たなサンスクリット語原典テキストの引用断片を回収した。 本年度は、これらの成果に基づき、「言語哲学」(アポーハ論)の思想史についての学術論文を3点、研究成果報告として公表することができた。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、研究計画の最終年度を迎えることから、ダルマキールティ著『知識論評釈』本文の異読調査や『知識論評釈』に対する注釈書の研究を総括し、研究成果の発表を行う。 また、2019年度のオーストリア・ウィーン大学図書館の調査などで入手した、仏教論理学派のテキストを大量に引用するジャイナ教徒の思想家のテキストの調査を継続し、カルヤーナ・チャンドラ(年代不詳)のものと推定され、引用断片のみが知られる『知識論評釈』に対する注釈書について、これまで得られた情報を整理し、公表する。 同時に、ダルマキールティの孫弟子とされるシャーキャブッディの『知識論評釈』への注釈書についても、ハリバドラ・スーリをはじめとするジャイナ教論理学者の著作に見られる引用テキストを整理し、松田和信教授によりネパールで発見されたサンスクリット語写本(断片のみ現存)との比較を行い、原典資料の整備を図る。 また、研究計画最終年度となることから、成果報告のための研究発表や学術論文の執筆を継続して行う。
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Causes of Carryover |
令和2年度(2020年度)に実施を予定していたドイツ・ゲッティンゲン大学図書館での写本調査およびインド・グジャラート州におけるジャイナ教僧院書庫の調査について、新型コロナウィルス感染症の感染拡大による渡航制限のため、令和3年度(2021年度)以降に延期することとなった。また、同じく新型コロナウィルス感染症の感染拡大のため、所属する愛知学院大学においてアルバイトなどを依頼することも不可能となった。そのため、海外出張旅費や人件費・謝金などについて、次年度使用額が生じた。 次年度使用額については、次年度(2021年度)交付額と合わせ、研究成果の取り纏めに向けた資料整理や校閲などを依頼するための人件費・謝金として使用するほか、ドイツ・ゲッティンゲン大学図書館での写本調査が新型コロナウィルスの感染拡大による渡航制限のため2021年度も引き続き困難な場合は、故北川秀則博士などが蒐集し名古屋大学に所蔵されるジャイナ教文献の調査を行い、その複写のために使用することを計画している。
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