2018 Fiscal Year Research-status Report
The Mulasarvastivada-vinaya studies in Edo-period Japan
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18K12204
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
岸野 亮示 大谷大学, 文学部, 助教 (40760137)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 根本説一切有部律 / 根本薩婆多部律攝 / 學如 / vinaya-samgraha |
Outline of Annual Research Achievements |
【本研究の骨子】 インドからチベット文化圏と漢字文化圏の双方に伝わった唯一の戒律テキストとして学術的な注目度が高く、また日本においては、空海(774-835)がひそかに重視したことで実際の仏教界にも少なからず影響を与えている「根本説一切有部律(こんぽんせついっさいうぶりつ)」という仏教テキストの包括的な研究の実現に向けて、近代仏教学が輸入される以前の近世後期の日本の学僧たちの同律に対する研究成果を網羅的に収集・参照することが本研究の骨子である。 【本年度の実績】 その空海の意向に基づき江戸時代の後期において「根本説一切有部律」の宣揚運動を展開した学僧の一人である學如(1716-1773)という学僧の著作(編纂物を含む)に焦点をあて、その中でも特に「根本説一切有部律」の解読に大きく関わると考えられるものを選定し、その所在を確認すること、そしてその所在が確認できたものに関しては、その概要を明らかにすることを目的に、學如が住職を務めた金亀山福王寺(広島市可部町)において資料調査を三度おこなった。結果、関連資料7点を確認・実見することができた。またそれらのうち5点についてはテキストデータも入手することができた。またかねてより本研究の代表者が解読を進めている『Vinaya-samgraha(ヴィナヤ・サングラハ)』というチベット語訳と義浄(635-713)訳で現存する「根本説一切有部律」の綱要書の研究において、福王寺に所蔵される學如自身が編纂・出版した義浄訳の『Vinaya-samgraha』(『根本薩婆多部律攝(こんぽんさつばたぶりつしょう)』)の版本も新たに参照することができ、結果『Vinaya-samgraha』研究をより情報量の多い有益なものにすることができた。 【本年度の成果】 上記の成果の一部を二回の学術大会において発表し、さらに一本の英語論文にまとめて投稿することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
福王寺に現存する學如の著作(編纂物を含む)の中でも特に「根本説一切有部律」の解読に大きく関わると考えられる7点の資料の実見調査を終え、そのうち5点の資料(『根本薩婆多部律攝』『小部類聚(しょうぶるいじゅ)』『南海寄帰内法伝引拠(なんかいききないほうでんいんこ)』『根本有部律受戒法儀(こんぽんうぶりつじゅかいほうぎ)』『有部律羯磨(うぶりつかつま)』)については、その書誌情報を明らかにするとともに、テキストデータも得ることができている。これらの文献については、小野玄妙の『佛書解説大辞典』(1933)や岩波書店の『国書総目録』(1963)において現存状況等は言及されているものの、その後の具体的な研究成果は全くと言っていいほどなく、その内容も殆ど知られていない。こうした文献の有無と内容を実際に確認することができ、さらにはデータを入手できたことは学術上極めて大きな価値があると言える。 またその5点の文献資料の中の『根本薩婆多部律攝』については、本研究の代表者がかねてより進めている『Vinaya-samgraha』研究において実際に活用することができており、その成果の一部も発表することができている。 以上のような理由から、現時点で本研究はおおむね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
福王寺に現存する學如の著作(編纂物を含む)の中でも特に「根本説一切有部律」の解読に大きく関わると考えられる7点の現存文献のうち、既に書誌情報を明らかにするとともにテキストデータも得ることができている5点については、そのテキストの内容を翻刻あるいは梗概等の形で公開できるよう解読を進める。そして実見調査を終えたものの未だ書誌情報を明らかにできておらず、またテキストデータも得られていない残りの2点(『安居並随意作法』『篇聚集』)についても、他の5点と同様に書誌情報を明らかにしテキストデータも得られるよう調査を続ける。 また『根本薩婆多部律攝』については本研究の代表者がかねてより進めている『Vinaya-samgraha』研究においてさらに活用し、まとまった成果が得られた時点で順次論考を発表していきたい。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定していたカメラやコンピューター機器、さらには貴重図書(古書)を予定通りには購入することができなかった。カメラやコンピューター機器に関しては、それに代わるものを選定し、貴重図書に関してはさらに探索し次年度以降に購入する。
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