2018 Fiscal Year Research-status Report
東方キリスト教における「説教」の研究:聖と俗の架橋としての「説教」
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18K12206
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
袴田 玲 岡山大学, 社会文化科学研究科, 特任助教 (30795068)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 宗教学 / キリスト教 / ビザンツ / 説教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヨアンネス・クリュソストモスやグレゴリオス・パラマスといった東方キリスト教を代表する思想家による「説教」の分析によって、各思想家の司牧者としての一面に光を当て、その中で展開される東方キリスト教独自の人間観について、 彼らの哲学的・神学的著作からは見いだせなかった新たな解釈を提示するとともに、その時代的社会的背景をも含めて多面的に考察することを目的とする。 以上の研究目的の下、本年度はまず、人間を「神の像と似姿」として捉えるという、広く東方キリスト教の思想家たちに共有されて来た観点について、ニュッサのグレゴリオス、クリュソストモス、パラマスのそれぞれの捉え方を、彼らの説教の原典からの精緻な読解を基に、比較考察した。その成果はAPECSS第12回国際研究集会にて口頭発表されるとともに、『エイコーン』第48巻誌上において発表された。また、パラマスに関してはマリアの死(就寝)が語られる中で広く人間一般の神化についての論が展開される第37講話の分析を集中的に行い、その際には同じくキリスト教中世の西方におけるもっとも重要な神学者の一人として対比項として機能しうるトマス・アクィナスの説教におけるマリア論との比較考察も行われた。その成果は第18回東方キリスト教学会、国際シンポジウムWomen and Con-viviality in the Eastern Christianity、中世哲学会第67回大会において口頭発表されるとともに、欧文論集Contribution of Women to Con-vivialityにおいて発表された。 また、フランスとベルギーにおいて、現地のビザンツ研究を牽引するVassa Kontouma高等研究院教授およびParintele Daniilルーヴェン・カトリック大学研究員と研究打ち合わせを行い、共に現地の正教施設(教会、修道院)を調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の通り、研究の基盤となるとなる原典テクストの分析およびそれを基にした発表と研究交流を国内外で順調に行っており、基本的には計画通り進んでいる。また、クリュソストモスやパラマスのみならず、その西方における対比項としてマリア論に関するトマスの説教の分析も行えたことは想定以上の進展であったと言える。 ただし、本研究のもう一つのねらいである(当該説教が行われた当時の)社会的時代的背景の解明およびそこから浮かび上がる一般庶民のあり方についての分析は今年度はほとんど進めることができなかったので、次年度以降に集中的に取り組む必要があると考えている。 以上の理由により、本研究は研究計画に従っておおむね順調に進展していると自己評価される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もクリュソストモスやパラマスなど東方キリスト教を代表する思想家たちによる「説教」の分析によって、各思想家の司牧者としての一面に光を当て、その中で展開される東方キリスト教独自の人間観について、 彼らの哲学的・神学的著作からは見いだせなかった新たな解釈を提示するとともに、その時代的社会的背景をも含めて多面的に考察することを目的とし、原典からの精緻なテクスト分析を研究の基礎に据える。 また、今後は、上記の通り本年度あまり進展させることのできなかった当時の社会的時代的背景についての分析およびクリュソストモスやパラマスの説教活動の再構成についても重点的に進める予定である。そのために、クリュソストモスに関しては『司祭職について』、パラマスに関しては彼がテサロニケの街で在俗の一般信徒と行ったとされる霊的交流についての証言(フィロテオス・コッキ ノスによる『パラマス伝』や活動を共にした後の総主教イシドロスの『伝記』)を分析する予定である。また、説教が行われた当時の典礼暦や現場の聖堂装飾も可能な限り追跡し、説教が全体として有したメッセージを再構成することも目指す。次年度末からは長期の在外研究を予定しており、現地研究機関の受入研究者およびその機関の有する豊富な資料は、この目的の達成のために大いに助けとなることが期待される。 さらに、次年度以降は現在のトルコ共和国やギリシャ共和国に残る遺跡での現地調査も予定されている。
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Research Products
(9 results)