2021 Fiscal Year Research-status Report
東方キリスト教における「説教」の研究:聖と俗の架橋としての「説教」
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18K12206
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
袴田 玲 岡山大学, 社会文化科学学域, 助教 (30795068)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | グレゴリオス・パラマス / フィロテオス・コッキノス / ビザンツ / 説教 / 一般信徒 / 女性 / マリア / 東方キリスト教 |
Outline of Annual Research Achievements |
グレゴリオス・パラマスの説教テクストを引き続き読解しつつも、当時の時代状況をより詳細に解明すべく、フィロテオス・コッキノスによる『パラマスの生涯』や『イシドロスの生涯』、ニケフォロス・グレゴラスおよびヨアンネス・カンタクゼノスの両者による『歴史』、公会議文書など、パラマスの同時代に執筆されたテクストも併せて読解することにより、当時の時代状況を一層立体的に解明した。 テクストの分析から、パラマスとイシドロスによる女性や子供を含めた一般信徒に対する教化活動が明らかになり、彼らの思想的背景としてシナイのグレゴリオスの存在も浮かび上がってきた。さらに、女性が主体的に修道的生活(必ずしも修道院に入ることを意味せず、巷間に生きながら精神的に浄く静謐な生活を送ることも含まれる)を送ることを推奨する彼らの思想において、聖母マリアがその範型として描かれるなど、東方キリスト教世界の中でも特徴的なマリア観が存在していることを明らかにし、当時のマリア崇敬の盛り上がりとの連関の解明に着手した。 これらの研究成果は、2021年12月12日に開催された第58回古代・東方キリスト教研究会、2022年3月9-12日に開催されたVirgin Beyond Borders International Conference、および、本研究代表者とThe Oxford Centre for Byzantine Researchが2022年3月17-18日にかけて共催したHesychasm in Context: Theology and Society in the Fourteenth Centuryにて発表された。また、2022年3月27日には、本研究代表者がコーディネーターとなり、Mary Cunninghamノッティンガム大学名誉准教授に東方キリスト教学会にて特別講演を行っていただいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
引き続き英国オックスフォード大学での在外研究中であるが、本年度も新型コロナウイルス感染症の流行(とくに年末のオミクロン株の流行)により、さまざまな規制の下での研究となった。しかし、図書館の利用規制の撤廃や、対面での授業や研究会の再開など、昨年度に比較すると状況は大幅に改善しつつある。2022年3月には延期を重ねてきた上記国際シンポジウムHesychasm in Contextを対面とオンラインのハイブリッド形式により無事に開催することができ、英国のみならずフランス、ドイツ、ルーマニア、日本から研究者が一堂に会して議論を交わすことができた。とはいえ、依然としてギリシャ共和やトルコ共和国における現地調査は2年以上にわたって実現できていない状況であり、本研究課題最終年度となる来年度の実施に向けて、状況を注視している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もパラマスの説教テクスト、コッキノスによる『パラマスの生涯』や『イシドロスの生涯』、グレゴラスよびカンタクゼノスの両者による『歴史』、公会議文書の読解を継続しつつも、ディミトリオス・キュドネスやカバシラスの書簡なども精査し、パラマスとイシドロスの活動についてのより広範な情報収集に努める。とくに、当時のマリア崇敬の盛り上がりが、ヘシュカスム運動(とくに一般信徒への教化活動)とどのように連関しているのかについて、検証する。 2022年8月には、新型コロナウイルス感染症の流行により2年にわたって延期されてきたInternational Byzantine Studies Congressがイタリア共和国において開催される見込みであり、本研究代表者も発表予定である。さらに、2022年度は本研究課題最終年度となるため、感染状況を注視しつつも、可能な限り計画していたギリシャ共和国およびトルコ共和国における現地調査を実現したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行により、学会等が延期されたり、オンライン開催となったため、渡航費用がかからなかったこと、また、同じ理由により、海外での現地調査が実施できなかったことにより、差額が生じた。2022年度には、これまで延期されてきた国際学会が対面で開催される見込みであること、海外での現地調査も可能な限り実施する予定であることから、これまでの差額はすべて使用できる見込みである。
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