2018 Fiscal Year Research-status Report
植民地期朝鮮における思想史研究の基礎構築(1):民族改良・実力養成・自治論
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18K12214
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
柳 忠熙 福岡大学, 人文学部, 講師 (90758202)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 朝鮮知識人 / 尹致昊 / 李光洙 / 崔南善 / 戦争協力 / 近代朝鮮文学 / ナショナリズム / 植民地朝鮮 |
Outline of Annual Research Achievements |
①個人研究:今年度は植民地末期・戦争期における朝鮮知識人の戦争協力の問題について研究を行った。8月に第4回アジア未来会議(韓国・ソウル)に参加し、植民地末期・戦争期における朝鮮知識人の戦争協力の問題を、尹致昊と李光洙を中心に論じた。12月には10月に出た拙著『朝鮮の近代と尹致昊』(東京大学出版会、2018年)の内容をもって転換期を生きた知識人の人生・思想の問題を考えながら、植民地期における尹致昊の人生・思想について検討した。2019年1月に同タイトルで韓国成均館大学校でも講演を行い、日本の研究者だけでなく、韓国の研究者ともその問題意識を共有した。同年3月にはAssociation for Asian Studies Annual Conference(アメリカ・デンバー)に参加し、本研究の対象の一人である崔南善の戦争協力の問題を、彼の文化論や歴史観を中心に検討した。以上の研究は、コリアンのアイデンティティに関わる〈朝鮮的なもの〉という問題を設定し、植民地末期・戦争期を生きた朝鮮知識人を再考することで、ナショナリズム的なアプローチを相対化する観点と、帝国日本への朝鮮知識人の戦争協力の内的動機とともに、植民地統治権力の暴力性などの外的要因をともに考える観点を示したものである。 ②研究ネットワーク構築:2018年10月19日・20日に韓国と東京から研究者(黄鎬徳教授・孫成俊研究教授[二人とも韓国の成均館大学校]。金牡蘭准教授[早稲田大学])を招待し、講演会(19日)と若手研究会(20日)を行った。黄教授の講演は学生と一般市民向けのものであり、近代朝鮮における文学の形成の問題をテーマとしたものであった。孫研究教授は『泰西名作短編集』の翻訳と検閲の問題を、金准教授は李孝石の『緑の塔』について発表を行い、九州地域の研究者との交流を行うことで、今後の研究ネットワークの基礎を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①個人研究:当初は19世紀初頭から植民地末期(1930年代後半~1945年)までという計画で早い時期から研究を行う予定だったが、時期に沿って研究するよりは、研究の各テーマを設定し、それに合わせて時期や人物を横断しながら研究を行うことが朝鮮知識人たちをより立体的に説明できると判断し、その方針を修正した。そこで、2018年度は植民地末期における尹致昊・李光洙・崔南善について研究を遂行し成果を発表した。しかし、もう一人の研究対象とした崔麟に関する研究はまだ計画中である。 ②国際研究ネットワークの構築:若手研究会を軸とする国際研究ネットワークの構築も良いスタートであった。当初研究計画には日本国内における若手研究者の招待は計画していなかったが、研究ネットワークの拡大や組織化のためには、日本国内の研究者の協力と交流は欠かせないと判断し、金牡蘭准教授(早稲田大学)を招待した。また韓国からは黄鎬徳教授と孫成俊研究教授(二人とも韓国の成均館大学校)を招待し、講演会・若手研究会を開催した。この三名の研究者は今後本科研プロジェクトの研究と若手研究会に続けて参加する予定である。以上のように、初年度の2018年度に国際研究ネットワークを構築する土台を作ることができた。 また、2019年3月には、研究代表者がオーガナイザーとしてパネル発表""Asia" in the Colonial Korean Imagination"を企画し、座長兼コメンテーターの渡辺直紀教授(武蔵大学)、発表者のProf. Jang Wook Huh(Univ. of Washington)とProf.Mi-Ryong Shim ( Univ. of Georgia、本研究課題の研究協力者)とともに発表や研究内容への共同作業を行った。 ③アーカイブ作業:植民地期における朝鮮知識人の文章のアーカイブ作業は文章の選定などを構想中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の成果を踏まえ、2019年度も引き続き、①個人研究 ②国際研究ネットワークの形成 ③アーカイブの構想と作業を行う予定である。 ①個人研究:2018年度に発表した内容を公刊する作業を行うと同時に、尹致昊・李光洙・崔南善の1920年代の活動に注目して彼らの活動を朝鮮人の自治論・民族改良論の観点から研究を行う予定である。崔南善の朝鮮半島に関する旅行記と〈朝鮮的なもの〉との関係性に関する発表を準備している。また、李光洙の「民族改造論」(1922)や「民族的経綸」(1924)をアーカイブ作業として日本語訳を行うとともに、これらの文章を再読する予定である。そして、1920年代における尹致昊の活動・思想と、自由主義者・キリスト教徒である吉野作造の活動・思想との比較を通じて、植民地支配に対する認識に対する、植民地の知識人と宗主国の知識人との比較という観点をもって検討する予定である。 ②国際研究ネットワークの構築:今年も10月中旬に講演会と若手研究会を行う予定である。2019年度には、10月に韓国の延世大学校の金杭副教授を招待し、講演会を行う。そして、新しく若手研究者を韓国から一人、日本国内から一人を招待し、研究ネットワークのさらなる組織化を図る。 ③アーカイブ作業:2019年度には、李光洙の「民族改造論」(1922)や「民族的経綸」(1924)を翻訳作業を行うとともに、壇君に関する崔南善の論説を翻訳する予定である。これらの成果は公刊を考えており、研究代表者が所属する研究機関である福岡大学人文学部から刊行中の『福岡大学人文論叢』などへの寄稿を検討している。
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Research Products
(8 results)