2020 Fiscal Year Research-status Report
植民地期朝鮮における思想史研究の基礎構築(1):民族改良・実力養成・自治論
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18K12214
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
柳 忠熙 福岡大学, 人文学部, 講師 (90758202)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 朝鮮知識人 / 崔南善 / 李光洙 / 朝鮮的なもの / ナショナリズム / 植民地朝鮮 / 近代朝鮮文学 / 近代朝鮮思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
①個人研究:今年度は、一昨年度より行ってきた1900~1920年代における崔南善の思想と〈朝鮮的なもの〉との関連性について研究を深めた。12月には2020年度九州史学会朝鮮学部会での研究発表では、昨年度発表した崔南善の不咸文化論と植民地朝鮮旅行との関連性に関連して同時期に彼が唱えた時調復興論および自らの時調の創作に焦点を当てて発表した。また同月には、『年報朝鮮学』に崔南善に関する2年間の研究発表を総合的に整理した研究論文を発表した。
②研究ネットワーク構築:2020年10月23日・24日に韓国・アメリカ・福岡・熊本・東京の研究者(申明直氏[熊本学園大学、教授]、鄭基仁氏[韓国のソウル科学技術大学、助教授]、金景彩氏[武蔵大学、非常勤講師]、閔東曄氏[学習院大学、非常勤講師]、シム・ミリョン氏[アメリカのジョジア大学、助教授]、金牡蘭氏[早稲田大学、招聘研究員]、服部徹也氏[東洋大学、講師])とともに、オンラインで講演会(23日)と若手研究会(24日)を行った。申明直氏の講演は、学生と一般市民向けのものであり、映画を通じてみた在日コリアンと日本社会をテーマとしたものであった。若手研究会では、鄭基仁氏は近代朝鮮における詩の形成の問題、金景彩氏は金基鎮の文学観、閔東曄氏は対談「民族の哲学」(1941)における朝鮮の問題、シム・ミリョン氏は李孝石の日本語小説「ほのかの光」について発表した。今回も韓国学以外の分野である日本学の研究者[服部徹也氏]も加わり、九州地域の研究者との交流を行うことで、本科研プロジェクトの研究ネットワークの充実化を図った。
③アーカイブ作業:今年度は、1900年代~1920年代の李光洙の論説(訳者:金景彩氏、閔東曄氏)、同時期の崔南善による発行雑誌の文章(訳者:田中美佳氏[九州大学、大学院生])の日本語訳の作業が終わった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
①個人研究:当初の今年度の研究計画である李光洙・尹致昊の1920年代の思想と活動に関する研究は、コロナ禍の影響で、教育環境の変化、韓国や国内での資料調査の困難もあり、順調に進められていない。しかし、こうしたなかでも、これまで行ってきた崔南善の研究を深め、研究発表や研究論文として発表したことは評価できる。
②国際研究ネットワークの構築::本科研プロジェクトの開始後より若手研究会を軸とする国際研究ネットワークの構築は順調に行われている。今年度も韓国学の隣接分野[日本学、服部徹也氏]の研究者も参加し、また当日研究会の参加者のなかには、中国学を専門とする研究者も参加しており、日韓の韓国学研究者の交流とともに隣接分野との研究交流の充実化が確認できた。今回参加した研究者は今後本科研プロジェクトの研究と若手研究会に続けて協力・参加する予定である。以上のように、3年目の今年度にも国際研究ネットワークとその組織の充実化がなされたと評価できる。ただ、コロナ禍によってオンラインでの講演会・研究会の開催となったことにより、オフラインでのさまざまな研究交流ができず、十分な意見交換および研究者間の問題意識の共有については懸念されるところもある。
③アーカイブ作業:植民地期における朝鮮知識人の文章のアーカイブ作業は、李光洙・崔南善は、1900年代~1920年代における文章を研究者らの協力を得て行った。尹致昊の場合は同時期に書かれた彼の日記を抜粋して翻訳する予定だったが、①の個人研究の理由に関連し、あまり進捗がない状況であり、次年度(2021年度)の課題とする。
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Strategy for Future Research Activity |
本科研プロジェクトは研究計画としては次年度(2021年度)が最終年度であるため、当初クロージング・シンポジウムを企画する予定だった。しかし、次年度もコロナ禍の終息を見込めない状況であり、海外からの研究者の招聘は難しいことを考慮し、もう一年間研究期間を延長することも検討している。以上のことを前提とし、次年度も引き続き、①個人研究 ②国際研究ネットワークの構築 ③アーカイブ作業を行う予定である。
①個人研究:2021年度には、以前研究発表を行った1930年代以降の崔南善の思想と戦争協力の問題に関する研究の公刊作業を行う。と同時に、今年度に予定していた李光洙・尹致昊の1920年代の活動、とくに日本の植民地統治に関する態度について研究を行う。具体的には、日本語訳作業済みの李光洙の文章に関する解説や研究ノートを作成し、今後その内容を研究論文に発展させる。また、尹致昊の場合は、日本による植民地統治に関する尹の考えを彼の日記より探り、それを自由主義者・キリスト教徒である吉野作造の活動・思想との比較を通じて検討する。 ②国際研究ネットワークの構築:2021年度にも10月に講演会と若手研究会を行う予定である。これまで参加した研究者との交流を深めると同時に、新たに隣接分野の研究者も招待し、研究ネットワークのさらなる充実化と組織化を図る。 ③アーカイブ作業:現在、尹致昊の日記以外の李光洙・崔南善の文章の日本語翻訳は終わっている。そこで、李光洙・崔南善の文章の翻訳成果を公刊する作業を行う。また①に関連して尹致昊の日記の翻訳作業も行っていく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で資料調査などの研究関連出張ができなかったことや、海外・国内の研究者の招聘ができなかったことにより、今年度の研究費の一部を執行することができなかった。本科研プロジェクトは研究計画としては、次年度(2021年度)が最終年度であるため、クロージング・シンポジウムを企画しており、研究者の招聘などの費用として使用する予定である。しかし、次年度もコロナ禍の終息を見込めない状況であり、海外からの研究者の招聘が困難になった場合、使用計画を見直し、もう一年間研究期間を延長することも検討している。
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Research Products
(6 results)