2021 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ・プロテスタンティズムにおける「リベラル/デモクラシー/共和国」の問題
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18K12217
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Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
小柳 敦史 北海学園大学, 人文学部, 准教授 (60635308)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リベラリズム / デモクラシー / 貴族主義 / 保守主義 / 宗教社会主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、リベラリズムおよびデモクラシーについての、W・ブセットとO・バウムガルテンのテキストの分析にあたった。特に、この2人がともに19世紀イギリスの思想家・著述家Th・カーライルを高く評価していることに注目し、彼らのデモクラシー論において、社会を導く指導者が要求されており、それがキリスト教的な人格理解と結びついていることを明らかにした。 ここから得られた知見をもとに、改めてトレルチのデモクラシー論を検討したところ、ヴァイマール共和国の成立前後に記されたテキストにおいて、やはり個人の能力の違いを承認した上で構成される《貴族主義》=《保守主義》的なデモクラシーが希求されていることが確認された。さらに、それがキリスト教倫理を実現する正しい意味での《社会主義》であると位置づけられていることも明らかになった。この時期にはP・ティリッヒなどのトレルチよりも若い世代の神学者が宗教社会主義を提唱していたことが知られているが、トレルチのデモクラシー論もまた、独特な意味での《宗教社会主義》の構想であった。 さらに明らかになったのは、自身のデモクラシー論における《貴族主義》=《保守主義》的な要素を、若い世代には理解されないものとトレルチが自己認識していることも注目される。当時の若い世代の中には、かたや、マルクス主義の影響の下で平等主義的な理念を掲げる傾向があり、かたや、保守革命的な言説により民族主義を基礎とした社会体制を要求する傾向があった。そのどちらとも異なるトレルチ、ブセット、バウムガルテンなどのデモクラシー論を理解するためには、彼らの貴族主義とその基礎にある人格理解を、彼らの保持するリベラルなプロテスタンティズムとの関連で明らかにする必要があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
Covid-19の影響により、2020年度以降海外渡航ができておらず、日本国内で入手できる資料では十分に研究を深めることのできないM・ラーデやO・バウムガルテンについての考察が不十分なままとなっている。また、本研究の方法論的再検討のために2019年度から着手したH・ヨアス氏(ベルリン大学)の「肯定的系譜学」の検討についても、ヨアス氏との面談による意見交換ができていない。本来であれば2020年度が本研究課題の最終年度であったため、以上の状況を鑑みて【遅れている】と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の遅れを補うため、研究期間を2021年度まで延長した。2021年度中に可能であればドイツでの資料収集とベルリン大学でのヨアス氏の訪問を実現し、彼の「肯定的系譜学」の方法論についての疑問点を解消した上で、20世紀初頭のリベラルなプロテスタント神学者たちのリベラリズム理解の意義と問題点をまとめたい。
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Causes of Carryover |
2021年度に予定していたドイツでの資料収集および研究者との討議が実施できなかったため、海外旅費として計上していた予算を執行しなかったため次年度使用額が生じた。2022年度中に海外渡航が可能となった場合には、海外旅費として執行し、渡航の目処が立たない場合には日本国内から入手可能な資料の入手のために使用する。
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