2018 Fiscal Year Research-status Report
ソ連およびポスト・ソ連期のロシアにおいてメディア上の都市表象が果たした役割の研究
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18K12229
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
本田 晃子 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (90633496)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 地下鉄建築 / 映画 / ポストソ連 / スターリン建築 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は主として研究計画の「テーマ① 地下鉄空間の表象」に関わる問題に取り組んだ。 スターリン時代に建設の開始されたモスクワ地下鉄は、首都モスクワを象徴とする建築空間として神聖視され、映画をはじめとするメディアにおいて地下鉄空間を犯罪や事故などの舞台としてネガティヴに描くことはほとんど不可能であった。ソ連の解体後、しかしこのタブーに挑戦する作品が現れた。それがアンドレイ・イ監督による『パイロットたちの科学的セクション』(1996年)である。 同作の分析を開始するにあたって、まずモスクワに渡航し、作中のロケーション撮影に用いられている各駅の特定を行った。そしてほとんどの場面が、モスクワ中心部のスターリン時代に建設された駅で撮影されていることを確認した。次に、作中でこれらスターリン期に建設された豪奢な地下鉄駅と、そこで展開される無差別殺人事件の被害者たちの血液、死体などのイメージが、どのように効果的に対比されているかを指摘した。さらに物語の主軸となる地下鉄運転手の不条理な連続殺人事件と、迷宮としての暗黒の地下トンネルが、スターリン時代の地下鉄駅のイメージ――照明によって明るく照らし出され、意味に満たされた空間――と対照的な関係に置かれていることを明らかにした。また、同じく地下鉄での大量死を扱った映画作品『メトロ』(2013年)とも比較を行い、『パイロットたち』に見られる「地下宮殿」というタブーの意識的侵犯が、『メトロ』には見られないことを指摘した。そして『パイロットたち』が、モスクワ地下鉄というスターリン時代の最も輝かしい建築空間の上に、収容所に象徴されるような不条理な暴力の横行する空間を二重投影する試みであったことを明らかにした。 以上の内容については、一部を2018年の日本ロシア文学会において報告し、その後論文を執筆、学術誌への投稿を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究は、9月にロシアへ渡航して現地調査を行い、その結果を学会において報告、論文を執筆するという当初の計画通り、おおむね順調に進行した。ただし予想以上に学務・教務に関する負担が増えたため、12月以降は論文の執筆に十分な時間をとることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度に調査・学会報告を行った内容を、今後は論文にまとめて学術誌に投稿する予定である。またその一部は、6月末に開催される国際学会でも報告する予定である。 また2019年9月には、2週間程度ロシアに渡航し、国立歴史図書館や建築博物館などの資料を利用して、主に「研究テーマ② 集合住宅の夢と悪夢」に関する資料(スターリン期~ブレジネフ期の集合住宅建設に関する資料)を収集する。そこで得られた成果は、ロシア文学会全国大会または関東支部会で報告する予定である。 加えて、10月以降は2015年から継続してきた映画の中のスターリン建築に関する一連の研究を、単著として出版する準備に取り掛かる予定である。
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Causes of Carryover |
研究を開始するにあたって、研究環境を整えるための機材の購入、および必要な書籍・映像資料の購入を行ったため。
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Research Products
(2 results)