2023 Fiscal Year Annual Research Report
The sound of Shinpa films--About benshi's narration and Japanese oral entertainment
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18K12234
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
谷口 紀枝 早稲田大学, 坪内博士記念演劇博物館, その他(招聘研究員) (70782697)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 新派映画 / 弁士 / 女性の声 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、映画誕生以降、現代劇として製作された新派映画に付随した音の歴史を、弁士台本を中心とする文字資料と、大正から昭和初期にかけ流通したSPレコード盤に収録された弁士の語りを含む音資料の双方から検証し、既に考察を進めている映像の解析と合わせ、新派映画を聴覚、視覚の両面から検証することで、その全容を実証的に解明しようという試みにあった。本研究においては、家父長制度に翻弄される近代女性の悲劇を描いた新派映画と、近代日本に生きる女性の心情を代弁した弁士の語りが、映像やレコードなどの音媒体を通して日本の津々浦々にまで運ばれることで、近代日本女性の一端を形成する過程に関与したと仮定し、女性の声に着目して検証を進めてきた。結果、明らかになったのは、新派映画を語る弁士の大部分は男性であり、女性の肉声は、女義太夫、女大夫、瞽女唄など、伝統的な芸能の延長線上にとどまり、近代劇である新派と結びついた事例は希少であるということであった。本年度はこの検証の成果の一端として、東京大学駒場キャンパスで開催された表象文化論学会第17回大会において、「新派と新劇の交差――『復活』と『カチューシャ』を繋ぐ女性の「声」について」と題する研究発表を行った。本発表では、その発生以降、一定の距離を保って活動していた新劇と新派が交差した舞台劇『復活』と映画『カチューシャ』を取り上げ、松井須磨子演じるヒロインに〈新しい女〉を感じ、共鳴する人々が、女形俳優・立花貞二郎主演の『カチューシャ』をも取り込みつつ受容していく過程を考察した。俳優としても、弁士としても女性への門戸が殆ど閉じた状況にあるなか、声色以外の役割をもたなかった女性の声は、この時初めて松井須磨子という生身の肉体を通じて日本中に轟き両作品を繋ぐ役割を果たした。この大正、昭和期の女性の表象と肉声に関する研究は今後も継続していく予定である。
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