2018 Fiscal Year Research-status Report
明治期京阪文化人ネットワークと同時代演劇の交流をめぐる総合的研究
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18K12235
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
後藤 隆基 立教大学, 社会学部, 特定課題研究員 (00770851)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 高安月郊 / 関西新派 / 静間小次郎 / 新聞小説 / 翻案劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、明治30年代の京阪における文化人ネットワークの支柱的役割を担った高安月郊に関する一次資料及び同時代紙誌を中心に、メディアに記録された文化交流の実態、それらと同時代演劇(特に新派)との影響関係について調査を進めた。 本研究の目的を遂行するための前提作業として重要であるため、第一に高安月郊とその周辺の文化人たちの活動を新聞・雑誌記事、各種文献等を通じて調査を重ね、特に月郊に関しては、研究代表者が高安家のご遺族から翻刻の依頼を受けている月郊宛書簡約10通(弟の高安道成発信)の調査・整理にあたった。現在、資料整理を経て翻刻作業に着手している段階であるが、明治20年代に留学先のドイツから送られてきた道成の月郊宛書簡の内容を明らかにすることで、従来未詳であった明治前期の京阪における西洋文学(文化)受容の実態の解明につながることが想定される。明治期京阪の文化的・社会的背景を明らかにすべく、次年度に向けた準備作業として検討を行った。 なお収集した新聞・雑誌記事、文献等のデータは、最終的にはリストの作成を視野に入れて整理・分析を継続していく予定である。 加えて、同時代演劇との関連性を考察するため、高安月郊らと交流をもち、明治30年代の京都で絶大な人気を博した新派俳優の静間小次郎に関する調査を進めた。同時期に設立された松竹合名会社(現・松竹株式会社)との緊密な関係や関西新派の多様性等については「関西新派の多様性:静間小次郎という現象」(立教大学文学部文学科日本文学専修主催シンポジウム「新派再考」、2018年10月7日、立教大学)として口頭発表を行い、研究代表者は同シンポジウムの企画運営を行った。この際、現在の新派で活躍する俳優の2代目喜多村緑郎、河合雪之丞に加え、劇団新派文芸部の齋藤雅文が参加されたことで、研究と実践をつなぐ場づくりに寄与しえたことは特記すべき成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度においては、明治30年代京阪における文化人ネットワークおよび同時代演劇に関する一次資料や同時代紙誌、文献等を中心に調査・分析を進めた。予算支出の面からみると、当該年度は本研究にとって有益と目され、かつ重要な資料を有する東京都内の各機関(国立国会図書館、早稲田大学演劇博物館、東京大学明治新聞雑誌文庫、松竹大谷図書館、国文学研究資料館、独立行政法人日本芸術文化振興会伝統芸能情報館等)の関連資料調査を優先的に行ったため、当該年度に行う予定であった京都・大阪等の地方公共機関・図書館等での調査は調査先の都合もあり、次年度に行うことになった。そのため、該当の旅費を次年度に使用する計画であるが、幸い東京都内の各機関が所蔵する同時代紙誌は従来の研究で未調査・未整理のものも多く、概ね順調に進めることができたと考えている。 とくに、研究実績の概要において述べたように、研究代表者が関西新派および俳優の静間小次郎に関する調査結果を発表したシンポジウム「新派再考」を開催できたことは、諸分野の研究者のネットワーク構築のみならず、現在にまで継承される新派(当該年度は新派創始130年の記念の年でもあった)の創作現場と学術研究の接続という機会を設けることが実現し、歴史的事象やその研究が、現代とも密接に関わりうることを証明できた意義は大きい。本シンポジウムの成果は活字化し、研究代表者の報告についても次年度以降に論文化する予定である。 なお、一次資料や同時代紙誌、文献等の調査を進める上で、それらの関連記事の抽出・分析も併せて実施し、それらのリスト化を行うことによって、今後の研究基盤の構築も視野に入れた活動を企図している。そうした調査・分析過程についても、未だ論文化には至っていない成果の公開をめざしている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年(令和1年)度は、前年に引き続き、明治期京阪文化人ネットワークに関する一次資料、新聞・雑誌記事、文献等にさらなる目配りをしながら、調査対象をこれまで中心的に扱ってきた演劇のみならず、文学・美術・音楽・教育・経済・政治関係等にも広げて調査を行う。当該時期・地域に関しては分野別の整理はなされている資料も少なくないが、ジャンル横断的にそれらを接続した研究は未だ行われていないという現状に鑑み、当該年度には、京都・大阪等の各種大学図書館・地方図書館・公共機関への調査を積極的に行うとともに、東京都内の各機関におけるマイクロフィルム資料等を活用した研究も継続して進めていく。その際、前年度に調査しきれなかった資料もできる限り拾い上げていきたい。 なかでも、京阪文化の展開を主導した京都帝国大学図書館長で英文学者の島華水は、明治30 年代京阪の新演劇(新派)でシェイクスピアやモリエール等、数々の翻案劇を上演しており、作品の舞台を日本国内だけでなく、韓国、台湾に置き換える特徴を有していた。京阪新演劇(新派)の実態解明にとどまらず〈翻案〉を介した西洋文学・思潮・文化受容、日清・日露戦争下の日本における東アジアへのまなざしという観点からも、近代日本演劇・文学・文化の多様性を捉え直すことをめざす。 くわえて住友財閥の15代目住友吉左衛門は片岡我當(11代目仁左衛門)が『乳姉妹』(菊池幽芳原作)を大阪で上演した際、当時の「上流社会」の言語・動作指導、衣裳の貸与、一族を率いての観劇等の支援を行っている。こうした事例を視座として、政財界・花柳界等のパトロネージによる同時代演劇への影響についても明らかにする。 以上の研究については随時、口頭発表を行い、論文化を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度に行う予定であった調査が、調査先の都合により、次年度に行うことになった。そのため、該当の旅費を次年度に使用する計画である。
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Research Products
(1 results)