2020 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本における「古代」の歴史化と美術に関する研究-国家表象と国宝を中心に
Project/Area Number |
18K12236
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
林 みちこ 筑波大学, 芸術系, 准教授 (40805181)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本近代美術史 / 古代 / 国宝 / 文化財 / 美術史学史 / 国家表象 / 神話 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、研究計画に挙げた6つの研究内容のうち⑥国宝指定、博覧会等の美術行政に携わった官僚の事績を調査する、という課題に取り組み、補助期間4年のうち3年間で当初設定した課題としての6件を完了した。最終年度前年度応募により新規の補助事業が採択されたため最終年を残しての繰り上げ終了となるが、当初の目標を達成できた。 昨年、本年と2年間にわたるコロナ禍により国内外の現地調査ができなかったが、その代わりに資料調査を積極的に行い『特別保護建造物及国宝帖』の調査過程で重要性が明らかになった平子鐸嶺の基礎資料の収集と分析を進めた。岡倉覚三(天心)による美術史の叙述を手伝っていた弟子たちの存在はこれまでも指摘されてきたが、『国宝帖』を読み込み、関連する書簡等の記録も参照することでより明確になってきた。その成果は『特別保護建造物及国宝帖』英語版であるJapanese Temples and Their Treasures, 1910 “ Part Ⅱ. Sculpture, Painting and Allied Arts- General Outline”の現代語訳および解題のVol.3として発行し、本助成期間中に翻訳を完了することができた。この研究を通して解明できたのは、岡倉の英文著述が、弟子たちによる日本美術史の基本的な叙述をパラフレーズし、内容を膨らませていく豊かで創造的な作業であったということである。 一方、近現代における古代イメージの表象については、対象とする時代を明治期から昭和期に広げ、戦時下の昭和14年に髪型の提案として古代の結髪「みづら」が提唱された事例を調べ、服飾や美術における復古趣味と国民総動員のイデオロギー上の繋がりを発見した。当該の論考は『考古学ジャーナル』に発表している。 以上、本研究により美術を通した古代と近代の結節点を確認し、当初の目標に到達した。
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