2021 Fiscal Year Research-status Report
仏教説話図の図像学的研究ーアヴァダーナを中心としてー
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18K12240
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
大羽 恵美 金沢大学, 人間社会研究域, 客員研究員 (50707685)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 仏教美術 / 仏教説話 / アヴァダーナ / チベット美術 / チベット絵画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は仏教説話のうちの比喩譚(たとえ話)の文献と美術作品に関する研究である。本年度はこれまでに発表した翻訳と、説話図のそれぞれのテーマにおける論考が蓄積されてきたので、取りまとめた上で編集と執筆を行い、成果として発表した(『菩薩伝の如意の華鬘』)。 仏教説話とそれに関わる芸術の相関が顕著に見られるチベットにおける絵画を中心に解明を試みた。チベットではインド所伝の説話文献をチベット語に翻訳し、それを厳格に保持する一方で、独自の解釈を加えて編集し、誰にでも分かりやすい形で詩歌や演劇や絵画にして表現してきたことが明らかになった。本研究における調査でこれまでに同定されていなかった絵画作例を同定し、複数の絵画セットの存在も明らかになった。本来は絵画セットの一部を構成する作品が切り離されて散逸していることも分かった。 対象とした絵画作例は、寺院内の回廊部分壁画や軸装の絵画とし、チベット語訳のテキストと絵画の物語を表す場面のモチーフを詳細にわたって検討し、同じ箇所に書き込まれる銘文も参照した。ここから導き出されたのは、基本的に絵画は文献の記述に従って表されていることであるが、典拠以外の関連するテキスト、つまり同じ主題を持つジャンルの異なる文献も参照し、典拠における表現の不足を補っていることが明らかになった。ほかの文献とする多くは『根本説一切有部律』のような律文献や、インドで成立した説話文献であった。このことは文献の成立に関わるのと同時に、絵画における図像学的な伝統の流入があったことを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
世界的なコロナウイルスの蔓延によって海外への渡航ができなくなり、予定していたインドと中国における現地調査ができなかった。資料収集の一部に遅れが生じている。博物館所蔵の作品については資料提供の申請によって写真資料を入手したが、現地の寺院や遺跡における壁画や彫刻の調査の手立てがなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の統括を行い、断片的に執筆した論考をまとめて体系化し書籍として発表する。 不足している資料については、引き続き海外のコレクションの協力を得て収集を進める。研究開始当初はわが国に絵画資料があることを想定していなかったが、いくつかの作品が所蔵されることが分かったので、調査する予定である。 今後、海外渡航が緩和されることがあれば、現地調査を行う予定とする。
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Causes of Carryover |
世界的なコロナウイルスの蔓延によって国内および海外での調査ができなかったため、残額が生じた。今後は研究報告書と書籍の出版のために、物品費と人件費・謝金として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)