2020 Fiscal Year Research-status Report
近代竹工芸の調査研究―飯塚琅カン(「カン」は「王」偏に「干」)齋を中心に
Project/Area Number |
18K12249
|
Research Institution | Tochigi Prefectural Museum of Fine Arts |
Principal Investigator |
鈴木 さとみ 栃木県立美術館, その他部局等, 主任研究員 (70525055)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 工芸 / 竹工芸 / 伝統工芸 / 日本美術 / アメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、飯塚琅カン齋の制作と活動を軸に、竹工芸を日本近代美術史に位置付けることである。若手研究3年目となる令和2年度は、前年度に引き続き、美術資料の調査および文献資料の収集と基礎調査を進めた。飯塚家に残されていた膨大な関連資料は、保存と活用の観点から一括して当館に寄贈されることとなった。予定では今年度が研究最終年度であったが、当該資料の調査にさらなる時間を要することとなり、期間を1年延長することとした。 また、所属研究機関である栃木県立美術館にて2020年11月に「竹の息吹き-人間国宝 勝城蒼鳳と藤沼昇を中心に」と題する企画展を開催した。栃木県在住の重要無形文化財「竹工芸」保持者である勝城蒼鳳氏と藤沼昇氏を中心に、栃木の竹工芸の源流ともいえる二代飯塚鳳齋や飯塚琅カン齋、歴代の人間国宝、さらに全国で活躍している作家まで、約100点の作品により、海外でも高い評価を得ている竹工芸の“現在”を紹介した。勝城氏の個展は県内では2012年以来、藤沼氏においては作品の9割がアメリカに渡っており、この規模での個展は国内初となるため、本展は世界に誇る日本の竹工芸に出会う絶好の機会となった。両氏の作品の考察を通して、琅カン齋が得意とした「束ね編み」の技法に創意を加え、新たな表現を生み出す過程を明らかにし、現在の人間国宝の独自性および日本の竹工芸の特質を浮き彫りにした。 勝城氏との対談や藤沼氏による講演会では制作の背景に迫り、貴重な証言を得ることができた。さらに両氏の「わざ」を記録した文化庁の記録映画を上映したほか、研究初年度(平成30年度)に調査したフランス、及び平成29年度に調査したアメリカにおける日本の竹工芸作品の展示風景や出版物もあわせて紹介し、地域の文化・芸術の活性と顕彰に貢献した。 なお、この展覧会並びに刊行した図録への寄稿と編集によって、本研究の成果の一部を公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は担当する企画展「竹の息吹き」展開催年度であり、研究代表者の研究機関での業務が想定以上に増加したため。 さらに、今年度はコロナウイルス感染症の世界的大流行により、国内外での出張、調査が不可能になり、科学研究費の研究の進捗状況に遅れが生じた。
|
Strategy for Future Research Activity |
飯塚琅カン齋を中心とした調査を今後も継続していく。琅カン齋が躍進を遂げた1930年代を中心に、雑誌『工芸指導所』、『工藝ニュース』、『民藝』などから、工芸・デザイン界での竹をめぐる活動との関わりについて調査を進める。 同時に、今年度一括寄贈を受けた飯塚家に関する貴重な資料の整理を進め、覚書帳にみられる制作の背景や技法について解明し、書簡やアルバム、新聞スクラップより、同時代の作家や支援者との交友関係についても明らかにしていく。 さらに、これまでの3年間で得られた国内外の調査対象者との交友関係を活かしながら、新たな調査を実施する。当該年度に実施できなかった海外調査についても、状況を見極めつつ対象地域を確定し実施していく予定である。 以上を通して、飯塚琅カン齋の制作と活動を軸に近代竹工芸について考察し、最終のまとめとしたい。
|
Causes of Carryover |
当該年度は新型コロナウイルス感染症の影響で、国内および海外調査を中止・延期にせざるを得なかった。次年度も海外調査を含めた研究費の使用が必要であり、研究資料の購入及び調査旅費として使用する予定。
|