2020 Fiscal Year Research-status Report
鎌倉~南北朝時代における絵所の並立と絵師の交流をめぐる調査研究
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18K12251
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Research Institution | Kanagawa Prefectural Museum of Cultural History |
Principal Investigator |
橋本 遼太 神奈川県立歴史博物館, 学芸部, 学芸員 (20782840)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 鎌倉 / 禅 / 肖像 / 肖像画 / 絵巻 / 禅律 / 美術史 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度(2020年度)は、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い外部機関所蔵の作品の調査が難しい時期が長く続いた。そのなか研究代表者が所属する神奈川県立歴史博物館が所蔵する清拙正澄墨蹟「与鏡空浄心偈頌」について、使用された料紙の特徴と偈頌の内容との関連、および附属文書から判明する近世における本墨蹟の伝来について明らかにするよう努めた。 清拙正澄墨蹟「与鏡空浄心偈頌」(神奈川県立歴史博物館)は、北条高時の招きに応じて来朝し建長寺や南禅寺に歴住した清拙正澄(1274~1339)が、乗福寺(山口県山口市)の鏡空浄心に与えた偈頌で、その内容は新たに諸山に列せられた乗福寺の鏡空浄心に対する言祝ぎである。款記によるとこの墨蹟が鏡空浄心に与えられたのは建武五年(1338)の春のことで、清拙の晩年の墨蹟と判明する。 本墨蹟に使用された料紙の特徴は雲母によるものと思われる文様が摺られていることで、水が渦巻いて流れるような描写(あるいは雲烟の描写)と、鬚を伸ばし安座して斜め上を見上げる人物の姿が確認できる。清拙の認めた文字の行取りに注目すると、雲母摺りで表される人物に、文字が重ならないように行間を調節し、かつ文字を書き進める方向を調整したと判断できるため、清拙はこの料紙装飾の存在を意識しながら偈頌を書いたと推定できる。要するに料紙装飾文様が文字の背景に埋没することなく、文字と対等に機能している。 本墨蹟の宛先である鏡空浄心については伝記資料に乏しいが、本墨蹟の存在こそが二人の関係性を示す証左となるものと評価すべきである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度(2020年度)は新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い外部機関所蔵作品の調査が困難となり、2021年5月時点でもなお新型コロナウイルス感染症の影響は続いている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の感染状況に留意しつつ、発注者や制作集団あるいは制作年などのいずれかが明らかな作品を中心として、作品調査を引き続きおこなう予定である。
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Causes of Carryover |
令和2年度(2020年度)は新型コロナウイルス感染症の拡大により調査旅費の執行が少なかったため、次年度に繰り越すこととなった。コロナウイルス感染症の感染状況を見極めつつ調査研究を進める。
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